——どうしてそんなにも、一生懸命なんだ?

遠い日、紡がれた言葉。私はそれに笑って答え、相手は驚いたように目を丸くして・・

——そんな事は・・

今度は、あの頃・・頭の固かった私が驚く番だった。
あの日から、私は変わった。・・そう、思っていた。
この知恵を、今までとは違う、君たちの為に生かそうと——・・・。




ーー四人の勇者の物語 8ーー 博識のクリボー




「・・・近い・・」


無残に、ボロボロになった茂みをじっと見つめていたクリスケが、ぽつりと呟いた。
カーレッジが、『何が』と聞き返す前に、クリスケは顔を上げた。
今走ってきた道を振り返れば、あのプニ族の木の先端がまだ木立の影から見える。


「なんか、怖いのが近くにいるみたい・・な、気がする。
 ・・どうしよう・・ここじゃ、まだ、あのプニ族の木にも近すぎるから、・・意味が無いし」


・・さあ、どうする?

自問自答しながら、クリスケは必死で頭をフル回転させた。
しゃがみこんで地面を見てみると、一直線に何かの足跡がどこかへと向かっている。
目の前にあるボロボロの茂みは・・おそらく、その『何か』に“通過されただけ”でこうなったのだろう。


イコール・・相手、めちゃくちゃ強い。


今更ながら、自分の無茶な行動に冷や汗をかきつつ、クリスケは立ち上がった。
相手がなんだろうと、自分のやる事は一つだけ。・・もちろん、とてつもなく怖いが。


「カーレッジ、・・あのね、今から・・」


クリスケの口から紡がれたあまりにもな「作戦」に、今度ばかりは、カーレッジも呆れを通り越して驚愕した。
・・一瞬の間をおいて、静かなカーレッジの声がクリスケの中に響く。


『・・私は賛成できない。
 もし、失敗したら、・・怪我ならまだしも・・運が悪ければ、どうなるかは分かっているだろう?
 それに、あの木には確か結界が張ってあると、プニフ達も言っていた』

「わ、分かってる!でも、これ以外に、その・・女王の家来?引き離す方法、思いつかないもん・・;
 とにかく!・・早く見つけて、止めないと・・!
 結界があるって言ったって、このまま放っておいたらまたプニフみたいな人が出るかもしれないし、その時助けてくれる人はいないかもしれない!
 女王の仕業って分かってるんだから、オイラ達がどうにかしなくちゃ・・!ここの人たちは、女王のこと知らないんだから!
 それに、こんな近い所でバトルなんかしたら、プニ族さん達の木の存在が魔物にバレちゃうかもしれないしっ!」


必死で叫ぶクリスケの勢いにおされて、ふっとカーレッジが黙り込む。
諦めたような、ふぅ、というため息がクリスケの中で響いた。


『・・・・・・。じゃあ、条件だ。
 絶対に無理だと分かったときは、逃げる事。
 相手の素性も分かっていないのだから・・もし、この間の影の竜並みだったら、私達二人では』

「・・・それも・・分かってる」


きっと顔をあげて、クリスケは、また勘を頼りに走り出した。その目には、絶対に譲らないという意志の光が宿っている。
クリスケが・・カーレッジに話した作戦。それは・・。


——・・オイラがおとりになって、その女王の家来をせいいっぱいの所まで引き離す。
   それから・・そこで、どうにかして倒すしかない。


遠くまで連れ出したあとは、どうやって戻るのか。道に迷ってしまったら。
もしもその魔物が、異常なほど足が速かったら?

そんな事すら飛び越えた、ある意味無謀すぎる作戦。
それすらを、カーレッジに(しぶしぶながら)『YES』と言わせたのは・・やはり、彼の決意だったのだろう。
一緒に、紡がれたもう一つの言葉。


——・・オイラには、なんの力もないから・・これくらいしか、できないけれど。
   できる事なら、なんでもいい・・!



・・・クリスケの視界の先の若い木が、不自然な方向に折れ曲がっているのが、見えた。







———————————————————————————————————







時間は、少し前にさかのぼる。
クリスケ達が、プニフの案内でプニ族たちの住処にたどり着いた、ちょうどそれと同じ頃。


「・・放せ!俺は何もしてないだろう、ここからさっさと外に出せ——・・っ!」

「無駄な抵抗はやめるんだね。
 ・・もうじき女王様がお見えになる。この事を、一生の名誉に思うがいいさ」


もっとも、そう思う事も叶わなくなるだろうが。


にい、とマジョリンが口角を上げるのと同時に、突然、彼の首に衝撃が走った。
マジョリンの脇に音もなく現れた何かを垣間見たのを最後に、ふつりと彼の意識が途絶える——・・。



「マジョリン、首尾は」

「問題ありません」

「では——・・」


短い会話を交わし、影の女王は右手を閃かせて、宙に模様を描いた。
バチバチ、という音が七色の・・いささか濁った印象のある・・光と共に響いていく。



シュウゥ・・。



小さな音を最後に、部屋はまた、しんと静まり返った。
一呼吸ほどの間を置いて、影の女王がマジョリンを振り返り、片手で、倒れている「彼」を指差した。


「これを・・不思議の森に、解き放て。
 合わせて、先ほどの駒の回収を」

「承知いたしました」


すっ、とマジョリンが手を上げる。
小さく呪文を呟いてから、マジョリンは影の力を使って、消えた。







———————————————————————————————————







———・・・・


——・・せ・・



まるで、声が霧の向こうから響いてくるように感じる。
そんな時、ふっと彼の脳裏に誰かのイメージがちらついた。


・・探さなければ。


——・・・こいつを・・・・


あいつを、探さなければ。


「彼」は、不思議の森を駆け出した。







———————————————————————————————————







葉擦れの音が、今度はカーレッジの耳にもしっかりと聞こえた。
・・気のせいか、一緒にバキバキという音も響いている。
クリスケの顔が、半分青くなりながらも引き締まった。きっ、と木立の向こうを見据える。


「・・・来た」



“・・・キイイィイィイッ!!”



甲高い声と共に、目の前の茂みがバキバキと悲鳴を上げる。
そして、そこから大きな影が飛び出した!
何が来るかと身構えていたクリスケだったが、・・さすがに度肝を抜かれて固まった。


「・・・なんだこれ・・!?」


無理やり表現するならば、こちらの世界のノコノコが異常に大きくなった感じだろうか。
今の時代で言えば・・ものすごく凶暴になったゼニノコーに似ているかもしれない。
ただ一つ、違うといえば・・目が、真紅に染まっている所だろうか。
・・と、その時、その魔物がふいと下に視線を向けた。ちょうど魔物を見上げていたクリスケと、目があう。


「(・・・・・・っ!?)」


背中に寒気が走って、無意識にクリスケは一歩後ずさった。
正面から見た、魔物の瞳。
光の映っていない真っ赤な瞳に宿る、・・恐ろしいばかりの、悲しい感情の渦。

一瞬、飲み込まれるかと思うほどの。

ぶんぶんと頭を振ってクリスケはそれを振り払うと、ぐっと足に力を入れた。


「・・と、とにかく・・!これくらいなら、オイラでも追いつかれずになんとかなるかも!
 カーレッジ、もう後には引けないから、行くよっ!」


ばっ、ときびすを返して、全力疾走でクリスケが走り出す。
可能な限り、プニ族の木から離れた所まで。
とりあえず・・相手が疲れた頃に、カーレッジにとどめを刺してもらうしかないだろう。
問題は、相手と自分、どちらが先にバテてしまうかである。


「・・・っ、あの魔物はっ!?」

『・・追ってきている、だが動きは鈍・・』



・・・・ドォオンッ!!



突然、後ろで大きな音が響く。それから一瞬遅れて、クリスケの横を衝撃がかすめた。
何事かと思って横を見れば・・地面が、大きくへこんでいる。


「・・・え・・?」


振り向いたとき、魔物とまた目が合った。もう一度、クリスケの背中を寒気が走る。
それに気をとられるのと同時に、ひゅっと風が鳴る音がした。続けて、魔物から鋭い波動が放たれる!


「——・・・!」

『危ない!』


目の前に迫った何かの気配に、足が動かなくなる。
息を呑んで固まったクリスケの前に、突然、光と風が渦巻いた。



ドオンッ!!

・・・キィンッ!!



それに続いて響く、高い剣の音。



——・・・



「(・・え?)」


その瞬間、ふっとクリスケの脳裏を何かがかすめた。
目を見開いたまま立ち尽くす。・・なんだろう、この概視感は?


まるで、一度体験した事かのような——・・・




「大丈夫か!?」


振り返った、実体化したカーレッジの声に、クリスケが我に返る。
それから一気に、今何が起きたか理解して真っ青になったクリスケの口から、ようやっと音がこぼれた。


「・・カー、レ・・ッ、今の・・・なに・・?」

「・・・今のは・・」


ふっと、自分の星流を見下ろして、カーレッジはもう一度今の攻撃を思い返した。
目には見えなかったから、エネルギー弾・・のような物だろう。
顔を上げると、相変わらずクリスケは固まっていた。・・黙ったまま、その背中を押す。
相当ショックが大きかったのだろう。


「・・クリスケ、しっかりしろ!走れ!」

「・・・・、・・っ、分かっ・・て、る・・!けどっ、足がちゃんと動かないんだよーっ!」


半分泣き声のような声を上げながらも、よたよたとクリスケは走り出した。
その後ろから、半分押すような形でカーレッジがついていく。
カーレッジが振り返ってみると、あの魔物も相変わらず、自分達を追ってきていた。

・・今の反撃で、少しはひるむかと思ったのだが。

心の中でだけ呟いて、すっ、と星流を持ち直し・・・ふと、違和感を感じた。
剣に残る、さっきの力を打ち返したときの手ごたえ。・・・あれは。


「・・なんなんだっ、あの魔物・・!というか魔物!?絶対、目が変だったよ!?」

「・・・まさか」


カーレッジが、小さく呟く。
星流で跳ね返した不思議な力。その中に感じた、・・あの力。嫌というほど覚えている。
それに、光を映さない魔物の真紅の瞳。
そこから弾き出される答えは・・・。

答えに行き着いて、カーレッジが目を見開いた。愕然として、口を開く。



「・・・・操られている・・!?」



カーレッジの言葉に、クリスケも絶句した。
もう一発エネルギー弾が飛んできたので息をつく暇も無く、走り出しながらカーレッジの方に顔だけを向ける。


「カーレッジ・・操られて・・って、いったいどういう事!?」

「・・女王の仕業だろうとしか思えない・・!
 さっきのあのエネルギー弾、あの中に、影の女王の持つ恐ろしいほどの闇の力と・・若干の、星の力を感じた。
 とにかく、あの魔物は・・この間の影の竜と比べ物にならないほど強いぞ!女王の直接の支配化にあるのと一緒だ・・!
 正気にさえ戻ってしまえば・・っ」


・・ドオォンッ!


「うわ・・!またあの変な・・うわぁん、どうしようっ!?」

「・・これでは、私の実体化していられる時間の方が持たないぞ・・!
 クリスケ、あと・・二分、それが私の実体化していられる限界だ!それまでに、あいつを引き離さないと・・!」

「そんな事っ、言った、って・・・っ!」


もう一発飛んできた弾を、カーレッジの星流が跳ね返す。
既に、全力疾走を続けてきたクリスケの足は限界に近い。
・・・とりあえず、近くの茂みにでも飛び込んで相手を撒くしかない、とクリスケが決心した時。



・・ドンドォオンッ!!



「・・・・・!!」


複数のエネルギー弾が、いっせいに放たれた!
カーレッジがなんとか跳ね返すが、さすがに全てを跳ね返す事などできる訳がない。
生き残ったエネルギー弾が、クリスケを目掛けて弧を描く。


・・・ドォンッ!!


「——っつ・・!!」


とっさに避けたものの、その余波が足を襲った。
さっき、薬をつけたばかりの所に、鋭い痛みが走る。
よろけたクリスケを支えて、なんとか走り出しながら小さくカーレッジが舌打ちをした。・・時間が、ない。

——残り三十秒。

一気にカタをつけてしまおうかとも思ったが、もし、致命傷を負わせてしまったら、
この敵が正気に戻ったとき、とてもやっかいな事になる。

残り、二十秒。


「くそっ・・!」


星流を握りなおして、それをカーレッジは大きく横にないだ。
もしこれが、闇属性にしか力を発揮しないのならば・・。
そう考えての、一種の賭け、だった。


「・・・スターシューティング!!」


キュイイィンッ!


星の矢が、いっせいに飛んでいく。
思ったとおり、魔物は星の矢に飛ばされて体制を崩したが、ダメージは食らっていないようだ。
ほっとしながらも、それは気休めにしかならない。
つまり・・。それは、カーレッジの攻撃がその魔物には一切通用しないという事。

残り十秒。

カーレッジは、ぐっと目を閉じて、もう一度だけスターシューティングを放った。
そして、その矢の末を見届けずに、クリスケを引っつかんでわき道の茂みに飛び込む。
それと同時に、カーレッジの姿が掻き消えた。


“・・・ギ、キィイ・・・”


茂みの外で、魔物の声が響いている。
自分達を、探しているらしい。ここにいても、見つかるのは時間の問題だ。


『・・クリスケ、大丈夫か?』

「・・・った・・、なん、とか・・。ギリギリ・・。
 足さえ、怪我してなかった、らっ・・!」

『今更言っても仕方が無い・・!
 今のうちに、茂みをたどって、逃げられる所まで逃げるんだ。
 完全に撒いたら、プニ族達の木へ・・!結界があると言っていたから、しばらくは大丈夫なはずだ!』

「分かっ・・」



・・・フッ。



その時。風が動いたのを肌で感じて、クリスケは荒い息のまま顔を上げた。
それと、ほぼ同時に。



・・・ドオオォンッ!!



一瞬、何が起きたのか分からなかった。
突然、目の前で茂みが吹き飛んだのだから。
瞬き一つの時間を置いて、クリスケの小さな体も爆風に吹き飛ばされる。


・・ダァンッ!


「・・——っ!」


思い切り木に叩きつけられて、ぐっと息が詰まった。
そのままずるずるとくず折れたクリスケに、容赦なく魔物が近づいてくる。
打ち付けた背中がずきずきと痛み、意識が遠のきそうになって、必死でクリスケは体を起こそうとした。
・・・が。


『・・クリスケ、しっかりしろっ!来るぞ・・!』


焦るカーレッジの声が、霧の向こうから響いてくるようにしか聞こえない。
体を起こそうとしても、今のでかなりのダメージを受けてしまったのか、全然動いてくれないのだ。


「ごめ・・っ、動けな・・い・・」

『くそっ・・!』


一旦言葉を、切った後。
・・覚悟を決めたように、静かに王は呟いた。



『・・・消滅しない事を、祈っていてくれ』



・・消滅?


その言葉をクリスケが聞き返すより早く、魔物が攻撃態勢に入った。
それを目の端で確認すると同時に、カーレッジが、必死で実体化を試みる。
今の状態で実体化することは、ただでさえ難しい。間に合うか。


『させるか——・・!』


カーレッジの声を遠くで聞きながら、クリスケの頭の中では、さっきの言葉がずっとリピートされていた。
覚悟を決めた、だけどどこか悲しそうな、そんな声。


消滅しない事を、祈っていてくれ。


消滅。・・・・消える。




カーレッジが消える?




「・・・——待っ・・!!」




声を上げた、その刹那。
後ろでガサガサという音がしたと思う間もなく、突然、辺りに閃光が走った。



「クリスケ——ッ!!」



そして響いた、聞き覚えのある、自分の名を呼ぶ声。



「え・・・!?」

『な・・っ』


呆気にとられる二人の耳に、もう一度何かが爆発するような鈍い音が響く。
とたん、周りにさっと煙が広がった。ゲホゲホと咳き込むクリスケの前に、さっと2人分の影が飛び出す。
魔物も、煙にまかれて彼らの存在には気づけないらしい。
何がなにやら、訳が分からない中。その影たちはクリスケを抱えて茂みに飛び込んだ。







———————————————————————————————————







しばらく続く茂みの中を駆け抜けた後。
ようやくその影はクリスケを地面に下ろして、ふはぁー・・と息をついた。
そしてたっぷり一呼吸を置いた後、がばっと顔をあげて。


「・・クリスケ、大丈夫だったっ!?
 よ、よかったぁ、間に合ってほんとう良かったよぉお・・!」


ほとんど叫ぶように、まくしたてた。
一方、ぜいぜいと荒い息を整えていたクリスケは、その声で今の影が誰だったかをようやく確信した。
と同時に、その声の主がここにいるはずがないことも思い出して、目を見開く。


「・・・なん・・なんで、ここに・・!
 守ってて、て・・言った・・じゃないか・・っ!プニフ!」


乱れた息のままで、クリスケが声を荒げる。
そして、がばっと顔を上げた。
視線の先で、半分涙目になったプニフがふるふる震えながらクリスケを見上げている。


「そんなこと言ったって!クリスケ、ぼくたちが来なかったら、ぜーったい大けがしてたよ!?
 あんな・・あんな・・お化け見たときは、ぼくだって怖かったんだからぁ・・!」

「・・・ぼく・・たち?」


その言葉にひっかかりを覚えて、クリスケが後ろを振り返る。
そこで、一人の影が救急箱らしきものを開いていた。その影が、クリスケの視線に気づいて顔を上げる。
二人の目が、あった。


「・・大丈夫かい?」


少しの間を置いて、少し低めの声が心配そうに響く。
クリスケの不思議そうな視線に、声の主のクリボーは少し笑って、プニフの方に目をやった。


「私はクリースと言うんだ。
 森の見回りをしていたのだけれど、そこにプニフがやってきてね。
 君が大変だ、って泣きついてきたから君を探していたんだよ。
 ・・さて」


すっ、とクリースは救急箱から丸い物を取り出して、ぽんぽんと弾ませた。
丸い物が宙に浮いた所で、それを思い切り蹴り飛ばす。
一直線に、それは走ってきた方角に向かって飛んでいき・・破裂した。
さっきと同じ、光と音、煙が周りにたちこめる。


「・・な、なん・・っ!?」


同時に、お馴染みの木を踏み倒すばきばきという音がようやく響いてきた。
さーっと、クリスケとプニフの顔が青ざめていく。
ボールを投げた時点で魔物に気づいていたらしいクリースは、一人呑気に感嘆のため息をついた。


「どうやらあの魔物は、相当耳か鼻が利くようだね」

「ク、クリース兄っ、そんなこと言ってるばあいじゃないよっ!?ど、どーすんのアレ!?」

「そのための煙球だろう?
 ・・逃げるぞ、プニフ、頼むっ!」


こくりと頷いて、プニフは、小さな体でさっとクリスケを持ち上げた。
クリスケは相当度肝を抜かれたが、クリースが笑ってプニフの触角についているリングを目で指した。
・・いわく、それをつけると力が増強される発明品であるそうだ。



煙が完全に晴れて、魔物がようやく辺りを見回したとき。
クリスケ達の姿は、そこから遠く離れた場所まで消えていた。







———————————————————————————————————







「さて、ここまで来れば大丈夫だろう。
 魔物避けの結界が、私たちの気配も隠してくれる」


自分の研究室の扉を開けて、ようやくクリースもふーっと息をついた。
後ろから、遅れてプニフが飛び込み、・・疲れていたらしく、よろけて根っこにつまづき、見事に転倒した。
・・もちろん、背負われていたクリスケも巻き添えである。


「・・・ぅわあっ!?」

「え?ちょ、な・・うわぁあっ!」


背後でどたがったんという二重奏が聞こえたが、それを見事に流してクリースは救急箱を開く。
ぶつぶつと独り言を言いながら薬草の残りを確認し、ようやく振り返った。


「悪いねプニフ、ちょっと打ち身に効く薬草を棚から取ってくれるかい?」

「・・・・クリース兄〜・・・」

じと目で見上げてくるプニフに冗談だよ、と笑い返してクリースは一緒にすり傷に利く薬草も取り出した。
それを見ながら、カーレッジが呆れたようにぼそりと何かを呟く。


「・・なんか言った?」


小声で確認するクリスケに、カーレッジはため息をついてから『・・いや、相変わらずだな、と』そう答えた。
相変わらず、という言葉にクリスケは軽く首を傾げたが、
公衆の面前で人からみたら独り言大会にしか見えない物をやるのもあれなので、お城にいたときに会った事でもあるのかな、と一人で考えを巡らせる。
・・と。


「クリスケ君」

「・・え、あ、はいっ!?」


突然かけられた声に驚いて、クリスケががばっと顔をあげる。
苦笑しながら、クリースが薬草の束と包帯を持って立っていた。


「クリスケ君・・で合っているかい?
 考え込むのもいいけれど、私は先にそっちの怪我をどうにかした方がいいと思うが」

「へ?怪我?」

「ほら」


クリースの指す自分を改めて見てみて、一瞬クリスケは気を失いそうになってしまった。
茂みを駆け抜けたときの切り傷といい、エネルギー弾のせいで飛んできた小石がぶつかったときのすり傷といい、
木に思いっきり叩きつけられたときの打ち身と青あざといい・・、よくもまあこれだけ怪我をして気づかずにいられたものだ。
気づいたとたんに傷の一つ一つが自己主張を始めて、クリスケは頭を抱えたくなった。


「・・・手当て、お願いしていいですか」

「心配しなくても、今からやるところだよ。
 ついでに・・どうして君があんな状況になっていたのか教えてくれるね?」


有無を言わせない口調で言い切って、クリースは血止めの薬草を手に取った。
いつの間にかプニフが持ってきていたはさみで、それを器用に切り分けていく。


「どれ・・随分ひどくやられたね。痛むかい?」

「あー・・今はかなり・・;」


客観的に見てもかなり酷い惨状を見て、内心でクリースはため息をつき。
手持ちの包帯と血止めの薬草を、一緒に水の中に放り込んだ。
そして、先に救急箱からふしぎの森の木の葉を取り出す。


「なぐさめ程度だけれど、痛み止めにはなるだろう。
 さて・・クリスケ君」

「・・あ、普通にクリスケでいいです」

「じゃあ私のことも、クリースと呼んでくれるかな?ついでに、できれば敬語はパスしてもらえるとありがたい」


このことは、この木に住むプニ族全員にも言っているんだけどね、と括ってクリースは苦笑する。
それから、ふっとその表情を消し、真剣な顔になった。


「では、・・クリスケ。
 君はなんだってあんな場所で魔物と追いかけっこをしていた?
 あの恐ろしい魔物達の正体を君は知らない。あいつらは・・・」


ちらり、とクリースがプニフを見やる。
当の本人は、薬を塗るのに熱中していて、クリースの視線には気づかない。
おそらく、「彼らには聞かせる事ができない」という事だろう。
それを見て、クリスケは首をふった。


「・・魔物の正体のことだったら、オイラも・・少しだけなら、知ってる」


いや、かなりだろう、というカーレッジの声が聞こえたが、あえて聞こえなかったふりをする。
訝しげにこちらを見返してくる、クリースの眼鏡ごしの目を見据えて、・・そして、ふいと視線を外す。
クリスケは下を向いたまま、無言で、不思議な色の木の葉を見つめ、そして。



「オイラ達の街は、オーシャル・アリウスは、全ての魔物を操っている影の女王に壊された」



気配で、クリースが息を呑んだことが、分かった。












next・・・