過去の失敗に囚われて
落ち込んだり 涙を流すことは悪いことでは思う
しかし そこに留まったまま 動くことができないでいたなら——
一体何の意味があるというのだろうか?
ーー四人の勇者の物語 10ーー Go ahead.
プニ族たちがぱたぱたと行き来する、クリースの研究室。
薬がどうとか薬草がどうとかと言いながら駆け回るプニ族たちの足音を聞きながら、
クリスケは何度目かも分からないため息をついた。
目の前のベッドで眠ったままのノコから視線を反らさないまま、独り言のように呟く。
「…カーレッジ」
『どうした?』
「……ごめん。何でもない」
結局、何も言わずに首を振る。
しばらくの沈黙。
カーレッジには、何がクリスケを追い詰めているかが分かっていたから——複雑な思いで、ため息をついた。
クリスケの中で、心配そうなカーレッジの声が響く。
『…お前のせいじゃ、無いだろう?』
「そう…かな…」
相槌を返しても、その視線は——、
あの日、自分がアリウスに残していった……一枚の布へと、どうしても向かってしまう。
せめてもの印に、と自分がアリウスを出るときにこっそりとノコへと残していった布。
そのことを思い出すと同時に、
自分のことを大馬鹿だなんだかんだと怒鳴っていたノコの姿が脳裏をかすめて、
苦笑にも、自嘲にもにた笑みがふっとこぼれた。
「…大馬鹿はそっちじゃないか」
長い付き合いゆえに、この友人がどうしてこんな事になってしまったか、くらいはすぐに想像できる。
おそらく、アリウスのどこか人気の無いところで、女王に捕まってしまったのだろう。
—— …もしも、
一つの可能性に行き当たって、クリスケの表情がますます曇った。
落ち込んでいるときには、…考えはますますマイナスな方面へと走ってしまうものだ。
—— ……勝手に出て行ってしまった自分を探していて捕まったのだとしたら?
「ものすごく、がつく大馬鹿はこっちだけどさ…」
『………』
それきり、クリスケは目を伏せて黙りこんでしまう。
しばらく時間が流れて——カーレッジが、いいかげんに説教をしてでも立ち直らせようかと考え始めた頃、
研究室の扉が開いて、席を外していたクリースが戻ってきた。
顔を上げて振り返ったクリスケに、いくつかの薬のビンと包帯を渡す。
「クリスケ、友達を心配するのを駄目だとは言わないけれど…あまり、自分を追い詰めない方がいい。
さっきからずっとそこにいたのかい?自分の怪我の手当てもしないで」
「……うん…ごめん…;
…アリウスにいた頃はこんなこと無かったから」
——自分でも、どうすればいいのかが分からない。
傷に薬をつけながら、クリスケはもう一度ノコへと視線をずらした。
それにつられて、クリースもふぃと視線をクリスケと同じ方へと向ける。
「そういえば…私が席を外している間、何か彼に変わった様子はあったかい?」
「……ううん、眠ったまま…、さっきと全然変化ない…」
「…そうか」
ふぅ、とため息をついてクリスケより先に視線を反らす。
——結局、あの時の質問はそのままふいになってしまった。
今のクリスケの胸の内を考えると、もう一度質問する気にはなれず、
クリスケとノコの関係—クリスケがノコに黙って出てきた等とは当然知るはずもなく—や、カーレッジの事はクリースには分からない。
ただはっきりと分かるのは、クリスケが猛烈に落ち込んでいること。
……それが分かるのは、クリースだけでは無い。
やや遠慮がちに、プニフがこちらに近づいてきた。クリースが頷くと、おずおずと口を開く。
「クリスケのお友だちもだけど…ねえ、クリスケも大丈夫?」
「…え?」
「顔がね、…まっさおまではいかないけど、まっ白」
「……真っ白?;」
本人にはあまり自覚がないのか、首を傾げる。
自分のことくらい気づけ、とクリスケを除いてその場にいた全員が思った。
カーレッジのため息に加えて、
プニフの表情にも思いっきりソレが出たので、クリスケが少しばかりむぅっとした顔をする。
「あのさ、オイラだって色々考え…て…」
言葉が、途中で消えた。
突然、自分の言葉と関係無しに——プニフが、驚いたような、期待するような表情に変わった。
僅かな希望が、胸を駆け抜ける。
クリースの表情もそれに似ているのを見て、クリスケは自分の後ろをばっと振り返った。
「……あ…」
振り返った視線の先で、ぴくんとノコの指が動いた。
———————————————————————————————————
——— ……探さないと…
それだけを考えて、必死で街を走り回っていたから、
何がどうなってしまったのか良く覚えていない。
気がついたら、目の前が真っ暗になって女王の前にいた。
……あーあ、多分逆に心配かけるな、これは…。
俺は楽観的にしか物事を考えられないし、
…あいつが一ヶ月気を失ってる間も、心配はしたし落ち込んだりもしたけど、
それでも悪いのはあの馬鹿女王だ、って思ってたから。
夢の夢、夢の中の回想。
目は覚めていなくても、ちゃんとここでは聞こえてる。
目が覚めたら忘れる夢。
だけど感じてる思いはおんなじで。
——————— 気を失っている間、ずっとあの時の夢を見ていた。
———————————————————————————————————
—— そして、ゆっくりとノコの目が開いた。
しばらくの間、寝ぼけた顔でぼんやりと天井を見つめていたが、やがて、誰かを探すようにその顔が動いた。
固まっているクリスケと、目が合う。
少しの間を置いて、
「…あー、やっと見つけた。
急にいなくなって、どこ行ってたんだお前?」
呑気に、言った。
後ろの方で、クリースが安心したように息をつき、プニフが歓声を上げた。
研究室で作業をしていた、他のプニ族たちも振り返る。
「……あれ?」
見慣れない…いや、アリウスならば絶対ありえないような光景に、
寝ぼけていたノコもようやく気づいたらしい。
不思議そうに、目を見開いたままのクリスケに向けて首を傾げる。
「………。…えーと、クリスケ、ここ…もしかしなくてもアリウスじゃ無い?
後ろの方にいる人たちって、誰…というか、そもそも、なんで俺はこんな所で寝てるんだ?
……頭はガンガン痛ぇし…;」
「……め…」
「…め?何?」
ノコの言葉に、うつむきながらクリスケが小さく呟く。
かすれているその声に訝しそうな表情をして、ノコが頭に手をやりながら起き上がった。
とたんに酷くなった頭痛で眉間にシワをよせながら——クリスケを見て、驚く。
「……ごめん…っ…!」
——うつむいたままのその声が、震えていた。
ぎょっとした表情のまま、どう声をかけていいのか分からなくなり、ノコの動きが停止する。
「………。
…ちょ、ちょっと待て、俺が、というかお前が何かしたかっ!?
目が覚めていきなり謝られても、何でいきなりそーなる、俺は何も——」
「ええと…。覚えていないかい?
……君は…、影の女王に…」
自分とクリスケとを交互に指差しながら(…)パニックになり始めたノコに、クリースが助け舟を出した。
“影の女王”の名前を聞いて、ノコの表情が消える。
顔に手をやって、——頭痛が増したのか、痛みを堪えるような表情で、目を閉じる。
「影の……女王…?
そう…だ、俺……あのとき、影の女王に捕まって、連れて行かれて……それで、
……ッ!?」
急に、ノコは顔から手を離した。さーっと、その顔が青くなっていく。
気を失っている間、ぼんやりと夢で見ていた記憶。
真っ暗な広間、嘲笑、鈍く光った星の形の石———。
「……思い出した…」
———————————————————————————————————
「………」
闇の宮殿で、影の女王は感嘆とも怒りとも取れる表情をしていた。
目の前にあるチェス盤の上の一つの駒が、砕けて、白い光となって消えていく。
「面白い」
一言吐き捨てて、勢い良く音を立てて扇を開く。
一瞬遅れて、その場所に影の穴が開き、マジョリンが現れた。
影の女王の表情を見て、心なしか縮こまっているように見える。
「…スターストーンを使っての洗脳と、わらわの魔法を合わせての兵の創造…。
良い手だと思ったのじゃが、時期が早すぎた。
元の器が光の側なだけに、予想よりも早く魔法が消えてしまったようじゃ」
「………」
「手間がかかるというのに、これでは効率が悪すぎるのう…。
……マジョリン」
「はい」
「しばらくは、先の方法はとらぬ。スターストーンが、充分にわらわの物となる日まではな。
その分…一般人の誘拐と育成、今までよりもさらに力を注ぐのじゃ」
「お任せを」
一礼して、マジョリンの姿が消えた。
しん、と静まり返った広間を眺めて、影の女王は、いくつかのチェスの駒を無造作に手に取った。
手をかざして、魔法の呪文を呟き、宙へと放る。
地面へと落ちる前に、駒はその姿を変えて、次々と飛び立った。
それを見送り、影の女王はまたチェスの駒を手にとって、魔法を呟く。
「“抗う愚かな者たちに、終焉を”」
チェスの駒は黒く光り、影のような姿になって空へと飛んでいく。
魔法がとければただの石になってしまう、忠実な影の女王の家来たち。
その心を支配するのは、たった一つの命令のみ。
「同じ“王”でも、ここまで違う者が存在するとはのぅ…」
くすくすと、楽しそうに影の女王は嗤う。
あの日、自ら都の民を救おうとしていたこの国の若すぎる王。
今まで滅ぼしてきた、数え切れない世界にそれぞれ君臨していた王や女王たち。
時に昏君と呼べるような馬鹿も居たが——そんな、都が沈んでいるような、不幸な世界にはさして思うことも無い。
幸せな世界を壊すために。
「……そういえば」
ふ、とこの世界へ来る一つ前の世界に居た若き女王が脳裏をかすめた。
まだ若く、ほぼ政略結婚と呼んでも良いような形で女王となり、
そして、その間に一体何があったのか——国を治める立場にあった一人の女王。
不幸であって良いはずなのに、その女王から笑顔が消えることは無かった。
滅ぼしてやりたいという強い衝動が駆け抜けたことは、今も記憶に新しい。
そして。
「…その結果が」
影の女王は、自らの胸に左手を当てた。
“影の女王”は、滅びを願う思いの集まりであることもあり——本来実態を持たない。
世界を滅ぼす度に、その世界の女王へと乗り移るのだ。
さらり、と桃紫色の長い髪が揺れた。
にぃ、と口角を上げて。
影の女王は、兵を創造し続ける———。
———————————————————————————————————
「影の、女王…あいつ…なんか、変な石を使って…。
俺に魔法を……気づいたら、姿…変えられて……自分のこと、忘れ…させられて…。
それで…」
冷や汗が、すーっと顔を伝っていく。
自分の手を呆然と見つめるノコに、後ろの方ではプニ族たちが事態についていけず、オロオロと顔を見合わせていた。
その様子に気づいたクリースが振り返り、「ちょっと外していてくれるかい?」と、小さく声をかける。
それぞれが頷いて、プニ族たちは——プニフ、プニナ、プニトの三人も——研究室からそっと出て行った。
クリースがそれを見送って振り返ったとき、ちょうど、さっきと体勢の変わっていないノコが口を開いた。
「……ごっ」
「…ご?」
短い一言に、それまで、辛そうにノコの言葉を聞いていたクリスケが顔を上げた。
…と同時に、
「ごめんはこっちのセリフだったんじゃないか、この馬鹿ーーーッ!!」
ばっしいぃんっ!!!
…はっ飛ばされた。
がらがっしゃんと後ろに倒れたクリスケを、唖然としてクリースが見つめる。
当の本人たちも、事態についていけなかったらしく、固まった。
『…大丈夫か?;』
「………。…………痛い…」
ボーゼン自失状態で天井を見つめたまま、一言。
ノコもまた、はっ飛ばしたときのままの格好で、言った。
「……わ、悪い、つい…。…癖で」
沈黙。
しばらくの間をおいてクリスケが起き上がり、ノコを見上げた。
何を言おうとしたのか、口を開いて——結局、何も言わずにまた閉じてしまう。
…はっ飛ばした本人は目を反らしていたのでクリスケのそれに気づかない。
やがて、ノコは視線をクリスケへと戻し、バツが悪そうに苦笑した。…その顔に冷や汗が伝っているのは気のせいだろうか。
「……まあ今のは忘れろって事で。頼むから今日はタックルは勘弁してくれ…な?;
………。全く、お前のせいで話がごちゃごちゃになっただろうが」
うぁー、といった感じの表情でため息をつくノコに、
それは自分のせいだろう、と内心でカーレッジがツッコミを入れた。
…実際に入れたところで本人に伝わるわけでは無いので問題は無いのだが、
問題があるのは自分の声が聞こえてしまうクリスケの方だ。
こんな状態の時に、そんなしょうもないコトを聞きたくは無いだろう——等と、カーレッジは考えを巡らせる。
“いつもならば”、ノリで返してくれるかもしれないが。
……明らかにいつもと雰囲気が違うというのに、それでもノコは気づかない。
「…えーと、とにかく、だ。
あの状況で謝るのは普通、俺だろ?
影の女王に…いい様に操られて、お前ら追っかけて攻撃しちまってさー…。自分が情けな」
「……ノコが悪いんじゃ無い!!」
笑いながら続けていたノコの言葉を遮って、クリスケが大声で叫んだ。
—— 先ほどまでの、何かを堪えていらような表情は完全に消えている。
ノコが、ほんの少し前までとはあまりに違う態度に——虚をつかれたようにクリスケを見つめた。
まるで自分に言い聞かせるかのように、クリスケがまくしたてる。
「攻撃したのはこっちも同じ!しかも…、オイラ、相手がノコだ、って…最後まで、ちっとも気づかないで!
いくら理由があったからって、…オイラが黙って出て行かなかったらこんな事にはならなかった!
…もう、あの日みたいに…人が傷つくのは嫌だって思ってたのに…っ!
結局……オイラのせいで…!!」
一気に言い切って、クリスケは大きく息をついた。
友人を攻撃した、友人を——自分のせい、で傷つけることになってしまったという罪悪感。
思いとは裏腹に、結局人に迷惑をかけていた自分への自己嫌悪——
「……っ、ごめん…ね…」
最後に、一体誰へ向けたものか——その場にいた全員に、だったかもしれない—— 一言呟いて、クリスケは口を閉じた。
それでもまだ息の荒いクリスケに、しばらくノコは気の抜けたような表情をしていたが——、
やがて、呆れたようにため息をついた。
「お前なぁー…。なーんでお前が謝るんだっての。
結局、攻撃して俺を助けてくれたのはお前と…えーっと…後ろにいる人…、だろ?
そもそも悪いのはお前じゃなくて影の女王だろうが。逆にそんなに言われても…。
自分だってあの時気絶してたくせに、俺の立場はどうなるんだよ」
「……でも!!」
何言ってんだお前?と言わないばかりのノコの声音。
それでも再び口を開こうとしたクリスケに、…生来、暴走気味な性格のノコは臨界点を越えた。
ばん、と音を立ててベットに手をつき、クリスケを睨みつける。
「だ——ッ!もう!!
いつ誰が今回俺がこうなったのはお前のせいだって言った!?勝手に自分で思い込んでるだけだろ!
いいかげんに聞き分けろ!納得しろ!割り切れさっさと!…この頑固な分からず屋!
当事者が良いって言ったら良いんだよ!」
「…っ、何それ!?そっちこそ、全然人の…」
「良いから黙って聞いてろ!!
謝るくらいなら、最初っからアリウス出てくんじゃねぇ!
さんざん俺や皆を心配させといたあげくソレか!?なら、何でお前はわざわざアリウス出てったんだ!
そうまでして行くほどのなんか大変な理由でもあるんだって、皆そう言ってたのに、うじうじしてる暇がある程度なのかよ!!」
「………っ!」
思いがけない言葉に、クリスケの声が途中で消えた。
慣れているはずの、もともと口の悪いノコの言葉が、今はこんなにも突き刺さる。
はっ飛ばすどころか、むしろ、殴られたような気分になった。
途中で生まれていた怒りの感情を、欠片も無くかき消すほどの言葉。
——立ち止まってる時間なんて、今のこの世界には残されていない。
しばらく、誰も何も言わない時間が流れ——、
突然、ぜぇはぁと肩で息をしていたノコが、がばっと顔を上げた。
何か言う事無いのかというか言えこの馬鹿、と目が語っている…いや、わめいている。
いつもと同じように。
…ふっ、とクリスケがそれまでの硬い表情を崩した。
「………ごめん」
「…っ、だぁから人の話ッ…!」
「……聞いてたってば。だから謝ってるのに…」
「は!?」
名残が残ってしまったのか、怒鳴るような調子でノコが聞き返す。
「やっぱりオイラのせいもあるって思ってるけど、もうそこで止まらない。
…止まってる時間、無いもんね。
アリウスを何で出たのか、…ちょっと忘れてた。ごめん…。あと、ありがとう」
最後に、思い出したように付け足したのは「思い出させてくれて」という短い言葉。
…複雑な表情で、ノコがクリスケから視線を外した。その顔に書かれているのは、曰く、
なんて奴だ、なんて単純なんだ、とにかく皆心配してるって自覚してるのかこいつは——などなど。
モロモロの感情を抱えて、大きくため息をつく。
その仕草に、クリスケがむっと眉間にシワをよせた。
「…何?そのため息」
「………。…お前がそんなふうにちゃんと反省するの始めてみたから、明日雨が降るかなーって」
「…!?それ言うならっ、ノコがこんなちゃんと筋の通った話するのオイラ初めて見たよ!
明日は雨どころか雪が降るね、きっと!」
「何だとぉお!?
いいか、今だから言い訳させてもらうけどな、
俺は一日気絶レベルでピンピンしてるのに、お前がいちいちそんなに落ち込んでると、
お前が一ヶ月気絶してる間の時の俺と比べてこっちもまた落ち込むんだよ!;
心配はしてたけど、俺全然そこまで落ち込んでなかったぞ!?」
「…は?」
ぎゃんぎゃんと続いていた言い争いが、拍子抜けして返す言葉が見つからなかったクリスケの番で止まった。
どういう事だ、とクリスケが聞き返そうとしたとたん、
背後で叫ばれた、聞き覚えのあるプニ族たちの声に思考がかき消される。
「「一ヶ月!?」」
クリスケが驚いて振り返ると、ドアの所に立っているプニフたちが目を丸くしていた。
いつの間にやら、こっそりと戻ってきていたらしい。
どうやら、見つからないように静かに話を聞いていたようだが——さすがに、事実の衝撃が大きすぎたようだ。
黙って成り行きを見守っていたクリースも、驚愕した表情でクリスケを見つめている。
「う、うそ、クリスケ一ヶ月もきぜつしてたのっ!?なんで生きてるの!?」
「いっ…!?プ、プニフ!それ、すっごく失礼だと思う!」
『…でも、一ヶ月も眠り続けた…というのは、私も確かにおかしいと思うぞ。
ひどい外傷がある訳でも苦しんでいる訳でも無いのに、
魔法にかかったようにいつまでも目が覚めなかったし…』
プニフに反論するクリスケに、ぼそり、とカーレッジが正論を述べた。
……言い返せない。
その言葉に渋い表情をしてクリスケが押し黙るが、しばらくの間をおいて、誰にも聞こえないように呟く。
「…観察してたんだ?」
『………。…………』
珍しく、今度はカーレッジが黙る番だった。
一ヶ月誰とも話せないというのはものすごく暇で大変だったんだ、とぼそぼそとした小さな抗議が消えていく。
クリースが、くすくすと笑って薬のビンを手に取った。先ほどの雰囲気とは違い、もう大丈夫だと判断したのだろう。
…一方、不自然な色の薬を飲まされる事を悟ったノコは、軽く青ざめて後ずさりしている。
「クリース兄、ねえ、ボク達ももうそっちに行って良い?」
「ああ、もう良……いや、ちょっと待ってくれるかな」
クリースが顔を向けると、ちょうど決心を固めたノコが例の薬を一気飲みした所だった。
しばらくの間を置いて、クリスケの「…水を持ってきてあげてくれる?」という声に続き、
部屋の中から何やら大変そうな絶叫が響いた。
「にっ…がぁあああぁあ—————!!!」
…驚いたプニフ達が逃げ出してしまったのは言うまでも無い。
next…