……なんだかよく分からないけど、すごくすごく寒かったことは覚えてる。
雨が目に入って痛くて、悪あがきをした喉も痛くて、
もうここに倒れてからどれくらい経ってるかも分からなかったけど、
(後から聞いた話では、僕は一月くらい、あそこに倒れていたみたい。一月だって。全然覚えてないのにな)
そのうちに、
いいや、もう、って確か、思った。
もうどうでもいいや。
消えてしまおう、って。

悲しむ人も誰もいない。
……僕だって、今、この世界の外で誰かが消えたとしても、その人の顔も分からないんだから。


どうして僕は生まれてきてしまったんだろう。
こんな歪な存在が、どうして生まれてきてしまったんだろう。

…こんなことなら、
最初から、生まれてこなければよかったのに。


……せめて、一度だけでも、
この胸に、リュートじゃない何か、だれか、を
抱きしめて、みたかったな。
抱きしめられて、みたかったな。

歌の中でしか知らないけど
人のぬくもり、って、本当はどんなもの だったんだろう。


……もしも生まれ変われるなら
次は、どうか、どうか

ひとのいるせかいに






























確かそんなことを考えて、
真っ白な空を見上げて、僕は笑ったような気がする。
伸ばした指先が霞んで、透けて見えて、ああもう本当に消えていいのか嬉しいなって思って、
どんどん音が消えていく世界だけがただひたすらに怖くて、
早く消えろ、消えろ、って願った。




そのうち、本当に久しぶりに、僕は意識が遠くなっていって、何も分からなくなって、
その後は……

……何も、覚えてないんだ。



























































所々を切り取ってしまったかのような、途切れ途切れの星空の下。
消えてしまいそうに震える広い草原に、一本だけ生えた小さな木の下で、クレスは眠っていた。
…違う、クレスの「身体」は、眠っていた。
クレスの歌う物語の中に住むオイラ達が来ることが出来るのは、ここまでが限界だったから…。

異変に気づいたのは確かカーレッジが先。
ある日、クレスが胸元に抱いていたミラが、最初から無かったみたいに消えていた。
それが何を意味するのかということを、オイラ達は知っていたから、
知っていたけど、でも、…どうにも出来なくて。

クレスがどんな夢の中に閉じ込められているのかも、オイラは知ってた。
でも、何も出来なくて、ただ、クレスの身体の傍にいることしか出来なかった。
早く春が来るようにって何度願ったかわかんないよ。
この眠りは、時が来るまで、何をどうしたってクレスから引き離すことは出来なかったから。


オイラ達は物語の中の登場人物にしか過ぎないから、
クレスを助けることなんて絶対に出来なかった。
オイラ達がクレスの無事を祈ってるなんてことも、眠ってるクレスは知らないんだ。
君のことを知ってる人がちゃんといるってことさえも、夢の中のクレスは知らないんだ!







「クレス、」


「クレス…!」



「ねえ、しっかりしてよ、ねえ…!!」





それなのに、クレスは消えていこうとしている。
見てる間にも指先がどんどん透きとおっていって、オイラは必死にクレスの手を握った。
…そしたら、嘘みたいに冷たかった。



クレスはこの空間そのものだから。
星空がどんどん消えていく。遠くから地面が崩れていく音が聞こえる。
オイラ達がこの場所にこれ以上いられないことは分かってた。
オイラもカーレッジも、生きているのは物語の中。
この世界の住人には、なれないんだ。


オイラ達の足元の地面が崩れた。
握っていたクレスの手と引き離されて、
世界から弾き飛ばされる瞬間、





「…っ、クレス、駄目だよ、君はまだ……っ」




(人に愛されることも、人を愛することさえも、何一つ知らないままで)




「死んじゃ駄目だ…!!」







最後に垣間見えたクレスの表情は、
眠ってるはずなのに、泣いてるみたいだった。





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