……信じていた、それでも最初はちゃんと信じていたんだ。
きっと、春になったら、十五の月が満ちたら、僕は目を覚まして、
あの笑い声のところへ行けるんだって。
時々は空想もしてみたりした。
この白い世界が、白い空が割れて、本物の空が現れて、僕を眠りから引きずり出してくれる話とか、
僕の知らない外の世界の誰かが、僕の夢の中に飛び込んできてくれる話とか。
(全部受動態なんだよ、笑っちゃうよね。…そりゃ、無駄に頬をつねったり出口を探してみたりはしたけど、さ)

……でも、
そんなことすら、この白い世界は、信じさせてくれなかった。





僕は、感情の消えた瞳で、静かに笑うようになった。
誤魔化しの言い訳が、静かな確信へ、少しずつ摩り替わっていくのに気がつかないまま。





——何も思い悩むことなんか、ないんだ。
そもそも願うのが間違いなんだ。願ったりするから苦しくなるんだ。
いてもいなくても同じなんだから、そんなこと願う意味なんかないんだ。
ねえ、僕には、リュートと…ミラと、音楽が、残されているんだよ?
そして、それを聞いてくれる人がいる。
だから、苦しむことなんか、なにもない。むしろ、幸せに恵まれているくらいなのに。
それ以上を望んじゃいけない。望んでなんかいない。
歌をうたえること、聞いてもらえること。
それだけで、
そう、それだけで、僕は十分、幸せなんだ。






………そうでしょう?

























































——いつの間にか、お客さまがいない時も、僕は延々と歌うようになり。
同じ歌を、何度も何度も、壊れたオルゴールのように、歌い続けた。
あの恋しい笑い声を、まるで掻き消すように、自分の感情を掻き消すように、
言い聞かせる自分の声だけが、聞こえるように。

白い白い世界に、恐ろしいほど不似合いな、明るい歌声を響かせて。



……こんな世界で、ひとつの弱い心が、狂わないはずがなかったんだ。














僕はずっと歌い続けた。
そして、……もう、夢を見始めてから、
どれくらいの時が経ったのか、分からなくなった頃。
(正確にはちょうど一年が経った頃だったけど、あの頃の僕にはもう、何も分からなかった)

夢の中なのに、熱を抱いてずきずきと痛む喉と、酸欠で霞む思考が、一瞬、旋律の檻の鍵を開いた。
一呼吸の間、檻から解放された僕の心が、ふと、ただ静かに、呟いてしまった。





〝僕はまるで、歌をうたうだけの人形のようだ〟





その瞬間、
弦を弾いたはずの指が、何も無い空を切った。
張り上げたはずの声が、息となって、掻き消えた。

糸が切れたように、
ミラと、僕の声が消えた。

世界から、全ての音が消えた。






(僕はもう、それで頭の中が真っ白になってしまって、
 ——それから先のことは、実はあまり、おぼえていない。)


>>










(本当はね、世界が真っ白なことも、自分の顔が分からないことも、幸せの場所も、みんなみんなどうでもよかったんだよ。
 ただ、寂しかった。ただ、誰かに傍にいて欲しかっただけなのに。
 そのことすら、分からなかったんだ)