白と、僕と、唯一僕に残された、音楽。
奇跡の半分で、ミラ、とそれだけ伝えてきたひとつのリュート。
奏でる旋律、光の粒——お客さま、それと拍手の音。いくつかの歌と物語。
ヒトの姿をした自分は、元々空間だっていうこと。僕は今眠っていて目を覚ませず、夢の中にいるってこと。
僕が知っているものは、それですべてだった。
自分の顔も知らない。
分かるのは髪の色とか声とか、一度うっかり弦で指を切ったら血がちゃんと赤かったこととか、それくらいしかない。
当然、僕の知らないものが、夢の中に出てきてくれるはずもない。
それなのに、
そんな僕の夢の中に、
いつからだろう、
空の、夢の彼方から、
顔も名前も知らない何処かの誰かが、
楽しそうに笑いあう声が、微かに、聞こえてくるようになったのは。
最初は何の音か分からなかった。
聞こえる度、何故か、胸が締め付けられるように苦しくなった。
でも、心が知っていた。あれは人の声。僕以外の誰かの声。
あれは、誰の声だろう。
僕以外の、誰か。……違う、僕は知っている、あれは、僕と同じ仲間の声。
ねえ、そこにいるの?
そこは、どんな世界なの?
こんな真っ白な世界じゃなくて、
まるで僕が歌う歌物語のように、色鮮やかな世界が、この夢の外には。
残されて、いるの?
まだ名前も知らない感情が僕の中で暴れまわって、
歌をうたうしか知らない僕は、どうしたらいいか分からなかった。
あそこへ行きたい、僕もあそこへ行きたい、と、
人間の子供のように駄々をこねて泣き叫ぶ僕の中の声を、どう宥めていいか、本当に分からなくて。
次の春が訪れるまで、僕は目を覚ませない。
分かっていることじゃないか、
そう何度も何度も言い聞かせて、やっとその声を寝かしつけても、
あの笑い声が聞こえる度に、僕の中の声は目を覚ました。少しも、泣くことをやめてくれなかった。
白い白い、何も変わらない白い世界。
長すぎる伸びきった時間の中で、僕の心が屈折していくのは簡単なことだった。
暴れまわる僕の中の声を、寝かしつける代わりに、
痛めつけて、何も言えないようにしてしまう方が簡単だと、無意識に気づいてしまうのも。
僕が、僕の見る白い夢の世界が、
外へ焦がれる僕の心へ向けて囁く。
(だから、もう、諦めろ)
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