僕は、夢を見ている。



生まれる前から、そして生まれてからもずっと。

白い白い、何も見えない、何もない世界。
それだけが、生まれた僕の周りにあったもの。
…違う、ひとつだけ。
僕には、音楽が残されていた。
抱きしめると、とくんとくんと脈打つような、柔らかで暖かい僕のリュート。


それだけが、僕の全てだった。







—Please remember me—






僕の身体は、あの頃ずっと、疎らになった星空の下で眠っていた。

——その深いまどろみの中で、ところどころ、ふっと息をつぐように夢を見た。
真っ白なだけの世界に訪れてくれた、小さな光の粒——に、僕には見えるんだ——お客さまに、同じ歌を贈る夢。
同じ歌しか歌えなくて、ごめんなさい、としょげていると、そっと小さな拍手の音を贈ってもらえることもあった。
とても、嬉しかった。
そのお客さまが元の世界へ帰ると、僕はまた、何も感じない深い眠りに引き込まれる。そしてまた、夢を見る。
何度も何度も、一度も新しい歌を歌えることのないままに、繰り返す同じ夢——。
深い眠りの黒と、ぼんやりとした夢の白が交互に打ち寄せる世界に、僕はいた。
時間なんて意味はなかったし、どんな永遠も一瞬と同じだった。

その頃の僕は、ううん、それまでの僕は、生まれる前の胎児と同じような存在で、
存在はしていたけれど、まだ、生まれていなかったんだ。
……そしてそれはずっと、そのまま続くはずで、
〝僕〟は、何の苦しみを知ることもなく、眠っているはずだった。
15の月が満ちるまで眠りに落ちた身体も、
そして今まで一度も目覚めたことのない心も、一緒に、
生まれる前の境界線に、ずっと浮かんでいるはずだったんだ。


けれど。

眠りについてから、九つの月が満ちて欠けた頃。
突然、僕は〝名前〟を呼ばれた。
それまで微かだった鼓動が突然力強く脈打って、僕という存在を貫いた。
まどろんでいた僕の心が、夢の中で、目を開けた。
それが、僕の〝生まれた〟瞬間だった。



それは……本当なら、きっと、凄く素敵なことだったんだと思う。
でも、僕を迎えたのは、ただどこまでも真っ白な、何もない、僕自身の夢だけで。
目を覚ましたばかりの僕は、立ち尽くすことしか出来なかった。



——僕は、身体を置いてきぼりにして、心だけが先に目を覚ましてしまった。
そのちぐはぐな状況が、何かのバランスを崩さないはずもなくて。

あの夢の中で、僕には深い眠りの闇が訪れなくなってしまった。
ずっとずっと、夢が終わらないんだ。
今までは、お客さまが訪れた時だけ、歌を伝える為だけに夢を見ていた。
でも、その夢が、終わらない。何も感じない深い眠りが、やってこない。
お客さまが元の世界へ帰っていって、僕が歌をうたう必要が無くなっても。


お客さまがいないのに夢の中にいても、ここには、僕以外の誰も、いないのに。
夢と分かっているのに、覚めることの出来ない夢なんて、現実と何が違うんだろう。








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