天空から降り立って、慣れない地上を当ても無く探し続ける日々。
疲労を覚え始めていたレメを旧市街の広場へと誘ったのは、チビでした。
週末には小さいけれどお祭りがあるんだよ。
彼の言葉どおり、旅の楽団が集い、賑わう広場の片隅に出来ていた人だかり。
素朴ながらもとても美しい音楽と歌声、手拍子、沸き起こる歓声と風、白い薔薇の花弁。
そして、レメは、小さな舞台の上で踊るブルーシアと出会ったのです。
彼女の背には翼。正第一王女が生きていれば至っているはずの年齢。
そして何よりも、踊る彼女の笑顔が何処までも眩しくて、レメは立ち尽くしました。
視線が交差し、ブルーシアは少し照れたように顔を赤くして、微笑みました。



四人だけの小さな旅一座クラウン・エテルナーレ。
演目の後、ブルーシアの姿を探し出して話しかけたレメに、
今は大きな旅楽団と一緒に南を目指しているのだと、ブルーシアは笑いました。
一ヶ月くらいは、この王都で旅費を稼ぐつもりみたいだとも。

それとなく過去のことを問うと、彼女は口を噤みました。
どこか寂しそうに翳った瞳を前にして、レメは、それ以上の追求は出来ませんでした。



“貴方”は、レメの目を通して、王都での日々を送ります。
レメは、不自然でない程度に、クラウン・エテルナーレの演目へ通い始めました。
演目の後には、やはり不自然でない程度に——ブルーシアと会話を交します。
“貴方”は、レメの声や仕草が少しずつ変化していくのに気が付くかもしれません。
レメの中に迷いが増えていくことにも気が付くことでしょう。
もしかしたら、ブルーシアが顔を赤らめることが多くなっていくことにも。



やがて、レメはブルーシアが天空王国正第一王女であるという確信を抱きます。
そして、——迷います。
自らの正体を明かすべきかどうか、彼女の正体を明かすべきかどうか。それとも——
レメの使命は、地上に落ちた正第一王女を見つけ出し、天空へ連れ帰ることです。
正直に伝えたところで拒絶されるかもしれない。
彼女を護り続けてきたというオールディに知れれば、
妨害されたり、行き先を告げずに旅立たれてしまう可能性もあります。
いいえ、なによりも——王女である以前に、地上で音楽に身を任せて踊っているブルーシアが、あまりにも、美しすぎたからかもしれません。
彼女は、このまま地上で踊り子として生きていく方が、幸せなのではないでしょうか?

……一座の出発の時が迫っていました。
“貴方”は、レメの選択を見届けます。
この時の選択によって物語は如何様にも分岐しますが、
今は、全ての枝葉の基本となる、一番本流に近い物語を語ることにしましょう。


レメと共に天空王国へやってきたブルーシアは、





-----十数枚に渡ってページが破り取られている-----


-----随分と汚い破り方だ。残された部分から微かに文字が読み取れる-----




——…対立の……たことによって、王国では内乱…——

——…立する各勢力が天候魔法を乱…——

——…は選択を強いられます。物語によっては彼…——




-----割り合い大きく残されているページ跡を見つけた-----




——…た時には、レメはブルーシアを護りきり、彼女を連れて天空王国を脱出します。
追っ手もやってきましたが、争いの中でお互い人手を割く余裕など無かったのでしょう、
レメひとりの力でも、少ない人数の彼らを沈めてしまうには充分でした。
いつか状況が落ち着けば、本気でブルーシアを連れ戻しにくるかもしれませんが……。

内乱から逃れる為に、翼の民の多くが難民となって、地上へ降りてきていました。
正体を隠しながら、大陸を奥へ奥へと逃げ続ける日々が続きます。
大陸のあちこちで、日照り、豪雨、季節外れの積雪が大地と人々を苦しめていましたが、
天候魔法の理と因果を知る機会が無かった二人には、勿論、理由など分かりません。


やがて、時と共に、追っ手ではなく自らの後悔から逃げ切れなくなる時がやってきました。
こんなことは、もう、終わらせなければ。
始めてしまったのは


-----ページのラスト数行が塗りつぶされている-----

-----憤りながらページを捲る-----






-----空白-----







-----空白-----









-----空白-----




-----巻末のたった一ページにだけ、文字が書かれているのを見つけた-----









……“貴方”に語られた一つ目の物語では、こうして、世界は消滅してしまいました。
眼差しを共有していた主人公から強制的に引き離され、
元の森の中へ戻ってきた“貴方”を見て、語り部は静かに笑います。
そして彼の隣には、もう一人、真っ黒な衣装に身を包んだ青年が佇んでいました。
青年が問いかけます。

「やりなおしたいか」
「時を戻したいか」
「あの物語を、もう一度、辿りなおしたいか」

あんな訳の分からない惨い結末をもう一度見たいかなんて、
酷いことを聴くものだと憤る“貴方”に、語り部が首を振ります。

「忘れないで。君は“幸運”なんだ。
 君が、もう一度物語を辿ることを望むのなら。
 もう一度、あの物語に、異なる可能性と幸運を与えることを望むのなら。
 僕は何度でも、あの世界の物語を語りなおそう」











 →ループシステム

同じ世界の物語を、視点を変えて何度も繰り返す。
視点を変えることで明らかになる謎、そして答え。
誰か一人の行動が変わることで、誰かの運命が変わる。