何故貴方は


そんなにも 一生懸命なのか


ワタクシには分かりません



何故貴方は


そんなにも心優しいのか


ワタクシには———







—— I Like You ——








……ドォン!



「うわ…っ!!」

「パレッタ!」


音を立てて、パラレラーの攻撃がパレッタに直撃した。彼の体が、雪の上に倒れる。
マリオと仲間達が、顔色を変えて、パレッタの名前を叫んだ。
そんな中、背後で、またパラレラーが攻撃の構えをする気配を感じ、ぎっとマリオは振り返った。


「ちくしょうっ…!」



バッ!



「パレッタのかたきぃーっ!!」

「ちょっと、マリオッ!それじゃパレッタが死んじゃったみたいじゃないのよーっ!」


ピンキーの叫びを黙殺し、飛び出したマリオのガツーンジャンプがパラレラーに直撃した。
それが致命傷となったのか、パラレラーが倒れる。
彼から星の精を封じたカードが解き放たれたのを完全に無視し、マリオはパレッタの元に駆け寄った。


「オイ、大丈夫か!?パレッタ!」

「ハ、ハイ…。ちょっと痛いところを突かれてしまいましたけれど、大…丈夫です。
 マリオさん、私の事はかまわずに…、星の精を」

「…でも……息も荒いぞ、本当に大丈」

「マリオ、さっさと行きなさい」


その時。言葉を遮られ、マリオはぺしんと頭を扇でひっぱたかれた。
いぶかしげに(そして痛そうに)マリオが振り返る。


「なにすんっ…、あれ、レサレサ?」

「パレッタの応急処置はワタクシがいたしますわ。
 貴方は、さっさと星の精を。それが役目でしょう?」

「あ、ああ……」


パレッタをレサレサに預け、マリオはカードに向かって駆け出す。
それを無言で見送ると、レサレサは呆れたようにため息をついた。


「無茶にもほどがありますわ」

「すいません…ええと、あれは私が油断、していて…。
 これくらいの怪我、たいした事はないですよ。もう平」

「パレッタ!」


立ち上がったパレッタを鋭い声で制し、彼女はぐっとパレッタの肩を掴んだ。
たちまち、パレッタの顔に苦痛の表情が走る。


「……っ…!」

「ワタクシを甘く見ないでくださらないかしら」


自分より高い位置にあるその顔を見つめて、またレサレサは大きくため息をついた。


「……やっぱり、ですわね。
 さっきの音、とてもじゃないですけど「たいしたことない」のレベルだとは思えませんでしたわよ。
 見栄を張るのはおよしなさい」

「すいま…せん…。さっき、私が油断したせいで…」

「本当に、さっきの怪我だけですの?
 …顔色が悪いですわ。ぶっ倒れてマリオ達に心配をかける前に休んだほうがいいと思いましてよ?
 どこか出血でもして貧血になってるんですの?」

「そんな事ないですよ、大丈夫で……」



パレッタが、『大丈夫です』と言い切る前に。
突然、ぐらり、と彼の世界が揺れた。



目の前で、突然音も無くくずおれたパレッタに、
さすがに度肝を抜かれたレサレサが目を見開き、悲鳴をあげる。


「レサレサ、どうしたんで……パレッタッ!?しっかりするでちゅ!」

「げっ、さっきの傷んとこが熱持ってやがる!ヤバイぜこれ、相当打ったんじゃないか?
 マリオ!さっさと山下りてサムイサムイ村に戻るぞ!」

「パレッタ、パレッタ、しっかり—— ……!」


レサレサは、未だに呆然と、立ち尽くしていた。







———————————————————————————————————







「お医者さんは…翼を、やられたんだろうって…」

「翼!?……クリオ、それってちょっとヤバイんじゃねえか…?」

「うん…レサレサがつきっきりで看病してるけど…。
 元々、最近体調崩してたんだろうとも、言ってた」

「……全然、分かんなかったッス」

「パレッタ、優しいから、心配かけたくないからって、きっと無理してたんじゃないんでちゅか…?
 あたち、気づいてあげられなかったでちゅ…」


キノピオハウスの扉の向こうから、仲間たちの声が聞こえてくる。
パレッタの様子がよくないので、彼と看病のレサレサを残して、彼らは薬やその他もろもろの買出しに出かけたのだった。

—— ……そこまで気づかなかったのは…ワタクシも、同じですわ

レサレサが、うつむいて唇を噛んだまま、
パレッタの患部の氷を取り替えようと立ち上がった時。



「…すいません」

「………!」


後ろから響いたか細い声に、レサレサがぱっと振り返る。
その視線の先で、あの時からずっと意識を失ったままだったパレッタが、ベッドの上に起き上がっていた。


「パレッタ…!まだ起きては駄目ですわ!
 傷が開きますわよ!?」

「やだな、これくらい大丈夫ですよ。
 ちょっと打っただけで…あの寒さに参ってたせいもあったと思いますけど…気絶しちゃって情け、な……」


最後まで言葉を紡がないうちに、パレッタはめまいに襲われて、またベットに倒れた。
参ったなあ、と呟いてため息をつく。


「一緒に風邪まで引いちゃったみたいですね」

「…当然ですわ。自分の体の体調管理もせずに、無茶ばかりしていて…。
 それに」


そっと、レサレサはこの前と同じ肩に触れた。正確には、…翼と繋がる、肩甲骨に。
パレッタの顔に痛みが走るのを、彼女は見逃さない。
…パレッタを正面から見据えて、レサレサは静かに呟いた。



「……ただのノコノコになりたいんですの?」

「………」

「ワタクシは知っておりますわ。
 生粋のパタパタ族は、翼が取れるとき、かなりの苦痛を伴うと。
 それにそれは、普段翼を使い込んでいる者ほど、重くなるとも。…郵便局員の、貴方のようにね」


彼は、クッパ軍団のパタパタとは違う。
「生粋の」パタパタ族だ。翼に衝撃を受けてそれが取れると、普通のパタパタよりはるかに、その翼の再生は遅い。
翼が取れそうな時も、ふつうのパタパタとは比べ物にならない苦痛を伴うのだ。


「……大人しく寝ているのを勧めますわね。
 ほとほと呆れますわ。意地を張るのも、本当にいい加減になさいなさい」

「…すいません」

「謝らないで欲しいですわ。
 ワタクシ達も…そんな貴方の意地に気づけなかったんですもの。
 もっと早く、見抜いていればこんな事にはなりませんでしたわ」


そう言って、レサレサは机の脇の救急箱から包帯を持ち上げ、そのまま、黙ってパレッタの肩に巻き始めた。
当人も、黙ってされるままになっている。


「……貴方は」


突然、レサレサの包帯を巻く手が止まった。
外を見ていたパレッタが、不思議そうに振り返る。


「…何故、そんなにも一生懸命なんですの?」

「……え…?」

「何故、そこまでして戦うんですの?
 …ワタクシは、手紙を集めてもらったからだと聞きましたけど…。
 それにしても、自分の体調が優れないときは前線から引くべきだと思いますわよ。
 なぜあそこまでして意地を張るのでして?」

「……うーん…あんまり自覚はないんですけど…」

「周り中が疑問に思ってますわよ、きっと今回のことで。
 ワタクシも…理解、できませんわ。こんな怪我をしてまで…。普通は仲間に伝えるべきですわよ」

「…そうですねえ……。
 …役に、立ちたいからじゃないかと思います」


うつむいたままのレサレサの手から、包帯が落ちた。
コロコロ、と布団の上を包帯が転がる。
それを目だけで追ってから、彼女は小さく呟いた。


「ずいぶん……、粋な理由ですわね」

「そうでしょうか?
 郵便局員も、同じですよ。誰かの役に立つ、誰かに笑顔になってもらう…それだけです。
 私が、マリオさんと共に旅をして、戦う事で…誰かの役に立てるのなら、私はとても嬉しく思います」


それに。


「仲間の皆の笑顔が見られるなら、私はどうなろうともいいんですよ」

「…貴方は強いですわね。…でも」


ぎゅっ、とレサレサは布団の端を握った。
うつむいたまま、一緒に目もぐっとつぶる。


「……皆が…ワタクシが見たいのは、
 あなたの、ワタクシ達に心配をかけまいと見せる虚勢の笑顔でなく、…本当の笑顔ですわ!」

「……え?」

「お願いだから、これ以上の無理はしないでほしいですわ。
 貴方が倒れたとき、いったいどれだけ皆が心配したのか知っているんですの?
 …ワタクシだって…。ワタクシ…だって…」



……ワタクシが、見たいのは。



「貴方に…笑顔で、パタパタ族として、この空を飛び続けていて欲しいんですのよ?」

「………」

「あんな風に、痛みを耐えるような笑顔なんて、向けられたくありませんわ。
 あれは、貴方の笑顔ではない。
 ワタクシが好きなのは…貴方の、本当の笑顔ですわ…!
 あんな無茶をして倒れて心配をかけるくらいなら、さっさと、仲間としてワタクシ達を頼りなさい!」

「レサレサさん……」


名前を呼ばれて、初めてレサレサは顔を上げた。
そして、気づいた。パレッタの顔が、風邪のせいだけではなく、赤くなっていることに。


「あの…、訂正させて下さい。
 私が、戦うのは…役に立つため皆さんの笑顔を見るためです。
 そして、それだけではない。人々を、この世界を、大切な仲間の皆さんを…貴方を…守るために、です……」

「………!」

「でも正直、やっぱりきつい事もあったんですよね。
 貴方の言葉が…嬉しかった。……ありがとうございます」


ふっ、と微笑んで、またパレッタは目を閉じた。
今度は、ベットに倒れこむ前に、レサレサが慌てて受け止めて、ちゃんと寝かせた。
額に濡らしたタオルを乗せ、初めて気づく。…さっき、自分は。



『ワタクシが好きなのは…貴方の、本当の笑顔ですわ…!』






—— 好きなのは。






「………!」


口元に両手を当てて、レサレサが硬直する。
今度は、彼女が耳まで真っ赤になる番だった。







戦うのは

ワタクシ達の役に立つため ワタクシ達を守るためだと

貴方は言った


貴方が そこまで優しいのは 何故なのか

……少しだけ 分かった気がします



守りたいものがある者は

誰よりも 強く優しい、と。


彼女は、遠い昔にセバスチャンから聞かされていた。







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「パレッタ——!」

「はーい、何でしょう、クリオ?」

「もうすっかり元気になったんだねえ。
 よかったよ、あのまま寝込みっぱなしかと思っちゃった」

「はは、そこまで貧弱ではありませんよ」


あれから1週間。
あの時の怪我など何もなかったように、パレッタは空を飛んでいる。
心からの、笑顔を浮かべて。

…そんなパレッタを、遠くから眺めている影があった。


「どうしたの、レサレサ?」

「ピンキー……」

「浮かないカオして…あれ?パレッタでも見てたの?」

「!!!」


ボン、と音を立てて赤くなる彼女には気づかず、
ピンキーは呑気に「元気になってよかったよねえ」と笑っている。
その時。ふと、パレッタがこちらを…レサレサを、振り返った。

そして。

瞬きをして、彼はふわりと優しく微笑んだ。






ワタクシは


貴方の笑顔が


その、本当の笑顔が




きっと




好きなんだと思いますわ





この思いは 胸の中にしまっておきます。……しばらくは。


もう、気づかれてしまっているのかも知れませんけれど。



だから、しばらくは








「レサレサー!ピーンキー!
 早く星の降る丘行こうよ、チョールさん達もきっと待ってるよー!」








貴方の守りたい 一人の仲間でいます





Loveではなく











・・・・I Like You
















END

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