二度目の亜空間飛行もそれはそれは順調で、モニターに送られてくる膨大なデータを観測して、監視して、いくつもの方程式を展開させながら、パスカルはどこかうつらうつらしてさえいた。
ギリギリまで抑えられた微かな振動とGに何時間も揺られているのだ。スタートリップ直後は神経も張り詰めていたが、それも最近は少しずつ緩んできていて、振動に合わせてゆらゆらとやってくる眠気に抗うのはかなりの大仕事だった。呻き声を上げながら、瞼を擦る。
「パスカル、コーヒーでも飲んできた方がいいぞ」
「んー……そうするのだ…。ありがとう、ラヌイー」
咎めるような同僚の声に、間延びした声で返事を返して。席を立ったとたん、
ぐわり、とフロアが揺れた。
「……っ!」
「なっ…うわ、なんなのだ!? まだ亜空間飛行は…」
「班長!」
放たれた、ラヌイの鋭い声を笑うように、再びの突き上げるような衝撃が襲う。
同時に、乱れていた大モニターが回復して、外の光景を映し出した。そこに広がっていたのは、亜空間飛行中の何色もの光の帯ではなく、宇宙の闇と、星と、ごく近いところに浮かぶひとつの、青銅色の惑星。そして、宇宙の闇の中で踊っているかのような、色とりどりな流星の姿。
今まで、何度も何度も観測してきた、それを、初めて間近に目の当たりにして、パスカルは息を呑んだ。暗い暗い宇宙の闇を矢のように駆けるそれは、銀河さえも破壊するその流星の群れは、その狂暴さを全く感じさせなかった。きらきらと、輝いては光の尾を引くそれは、今まで画像データで見てきた、どんな宇宙の色よりも——
「——メテオ!?」
ラヌイの、驚愕の滲んだ声に鼓膜を叩かれて、パスカルははっと我に返った。一瞬遠くなっていた、自分の周りの計測器や、研究員たちのざわめきが、一斉に戻ってくる。
のほほんとした声が、周囲の状況を置き去りに、からからと笑った。
「ははあ、大将、飛行の途中でこれに引き寄せられたのだな。メタモライトはメテオを率いる習性があるが、なるほど、こういう状況下では……」
「それどころじゃありませんよ班長! メタモアークにもメテオが飛来してきてます! おそらく、あの惑星の姿を写し取って、それで……」
ふいに、ガンッ、という金属音がラヌイの声を遮った。
遠くで、何かが何かに衝突している。途切れ、単発的に鳴り、そしてふいに連続的な金属音が、ガガガガガンッ、と響く。ざわざわと、不安げな声が満ちていく。
その音全てを圧して、一人のジオライトが鋭く手を打ち鳴らした。
「冷静に! 速やかに、各々の観測箇所を確認するのだ! メテオの飛来によるメタモライトの変化のデータをさっさと取らんか! ワレワレの観測結果がなければ、本部も対策もメテオの打ち返しにも支障が出るのだぞ!」
つい先ほどまでからからと笑っていた彼の瞳に、今やその面影はなかった。
しん、と静寂が戻り、それから一気にキーを叩く音、指示を飛ばす声が膨れ上がって、室内を支配する。金属音が締め出されていく。
呆然と大モニターを見つめていたパスカルも、慌てて席に戻り、数字の流れるウィンドウをいくつも開いていく。
『パスカルさん、パスカルさん、聞こえますか!?』
ふいに聞こえた声に、パスカルは微かに目を見開いて、指を止めた。
「…サーシャ!? どうして、」
『ごめんなさい、こんな風にアクセスして、でも、パスカルさんが一番話を聞いてくれると思って』
モニターの左上に、控え目に展開されたウィンドウが、切羽詰まったサーシャの表情を映し出していた。パスカルの返答入力も待たずに、早口で言葉を並べ立てていく。
『私たち——ワイヤロン星人は、あの星を知っています。ほんのささやかに、ですけど、交流があったんです。あれはメックス星、機械の星——このままでは、この船と、メックスとのどちらかが崩壊します、でも、協力すれば…飛来しているメテオを、二つの惑星が一方向に打ち返すことが出来れば……説得を…私たちに、メックス星へ通信を開く許可を頂けませんか!?』
必死の訴えに、パスカルと——そして、隣の席で、その大き過ぎる声を聞いていたラヌイも、思わず、顔を見合わせていた。
それは、この船が旅に出る時に、散々議論されてきたことで、「戦闘が回避出来ない場合は如何なる惑星もメテオス討伐の為に封じることも許可する」という条例が下されたことも、彼らクルーには周知のことで——
——「戦闘が回避出来ない場合は」。
「……っ、班長!」
パスカルの、少しだけ裏返った声が、研究室を飛んだ。
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