白く弾けた世界
暖かな風が頬を撫でて
目を開いたら
淡い浅葱の空と
甘い碧の草原が
長い永い
悪い夢
数万年の悪夢から醒めて
少女は
ぼんやりと瞬きを繰り返し
夢の名残に
涙を零した
とてもとても
怖い夢を見ていた気がする
止まらない涙が
大切なものを殺し尽くして
星空の煌きを
飲み込んで
最後には
ひとりぼっちで
暗闇に佇み
泣き止めず
誰も守れず
自分で死ぬことも出来なくて
哀しくて
恐ろしくて
寂しくて…
ただ
そう
微かに
柔らかなぬくもりの記憶を
覚えている
あれは
あのときの
暖かな風は……
『アスター』
『……気がついたのだ?』
ふわりと
若草の香りのように
少女を包む大気が
そっと
言葉を紡いだ
『……アステラは』
『こんなに美しい惑星だったのだな』
『ワガハイ、自分の目で見てみたかったのだ…』
歌う風が
そよぐ草原が
笑う青空が
少女を抱きしめる青年の姿を
透明な絵の具で
描き出す
「…ぱすか る……?」
ああ
これは
夢の続きだ
壊れてしまった私の心が
最後に映し出した
夢の終わり
それなのにどうして
こんなにも
暖かく 柔らかく
本当に存在しているように
何も
目には
見えないのに…
「……どうして」
「わたしは……そうだ、メタモアークは、」
「みんな、は…」
『大丈夫』
『爆発の瞬間に、七賢者さんたちが守ってくれたから』
『きっと今頃、凱旋帰還の真っ最中なのだ』
「…そっか」
「よかった………」
『ありがとなのだ、アスター』
「え…?」
『あの時、メテオスを硬直させてくれたから、ワレワレ、なんとかなったのだ』
「…わたし、そんなことしたかな」
『忘れちゃったのだ?』
「うん……」
ぽん、ぽん、と
背中を叩く手の平も
顔を埋める肩口も
ぬくもりを抱いた幻影は
柔らかく
暖かく
『…もう、悪い夢は見ないのだ』
『だから』
『おやすみ……』
少しずつ遠ざかる意識が
安らぐ場所を見つけるように
力の抜けてゆく身体で
空を見上げて
揺らめく瞳に浮かぶのは
自責と
後悔と
哀しみと
枯れた怒りと憎しみと
安堵と
安らぎと
幸福と
憧憬の
「……ありがとう」
淡雪が消えるように
暖かな日差しに溶け込みながら
ゆっくりと
目を閉じて
『良い夢を』
『アスター』
時と魂の楽園に
貴方の瞳の夢を見て
遠き彼方に彷徨える
涙に暮れる幼子は
やっと赦された安息に
ひとしずくの涙を
宇宙へこぼして
失われた愛を
唇と
微笑みに
おやすみなさい