もう誰も覚えていないような、遠い遠い昔のこと。 世界の全てを巻き込んだ、酷い酷い争いが起こり、 世界は終わりを迎えようとしていました。 草木はもはや育たず、天候は均衡を崩して荒れ狂い、 世界から四元素の精霊が失われた結果、 大地も水も火も風も、暴走と枯渇を繰り返していました。 それでも人々は争いを止めることが出来なかったのです。 終わりゆく世界には、天才と謳われた一人の智の民の少女がおりました。 争いに傷つき、命を落とす刹那、少女は魂を掛けて願いました。 「もう二度と争いのない、平和な美しい世界」を。 叶うはずのない、ちっぽけな少女の願歌は、しかし、“叶ってしまった”のです。 少女の魔力が及ぶ限りの大地と空が、本来の世界から切り離されました。 少女の魔力が及ぶ限りの人々が、その本来の性質を歪められました。 繋がりを絶たれた世界は、今も、彼女の魔力が生み出した膜の中に浮かんでいます。 世界の果てでは海の水が滝となって、奈落の底へ降り注ぎ、 やがては雨となって天上から降り注ぐのです。 少女の死後、膨大な魔力の暴走と世界そのものを抉り取られた影響で、 本来の世界は完全に崩壊し、宇宙の塵となってしまいました。 もはや帰る場所のない、小さな世界の欠片。けれど、心配することはありません。 彼女の魔力はあまりにも膨大で絶対で、尽きる心配はなく、 世界はいつまでも存在し続けることでしょう。 そして、もはや、数千年の時が流れた世界では、 もう、誰も、こんなことがあったなんて、覚えていないのですから。 ——それは流れ星に語られる、誰にも聴こえない物語 |