「今日の星も、とっても綺麗ね…」
冬の夜空に散っていく白い息を見ながら、ピーチ姫が呟いた。
きぃんと澄んだ冬の空の向こうで、たくさんの星が輝いている。
流れ星が、一つ流れた。
「姫は、本当に星が好きなんですね」
隣で並んで星を見ていたキノピオが呟く。
でもその格好じゃ風邪を引きますよ、と言ってピーチ姫の手に持ってきた上着を渡した。
礼を言って、ピーチ姫がその上着を羽織る。
「ええ。特に、冬の星は手が届きそうに輝くから好きなの。
それにもうすぐ…」
「…もうすぐ?」
「…あっ、ううん、忘れて。何でもないの。
………。
ねえ、キノピオ?」
「なんでしょう?」
「私、今…夜空を見ながら、考えていたの。
こんな夜には、ティンクも人々の願い事を聞いているんじゃないかしら、って。
もしかしたら、さっきのあの流れ星は、
願い事を届けにいくティンクだったんじゃないかしら…、って」
だから、ティンクや皆が元気で幸せでありますように、って願い事をしたのよ。
*・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・*
流れ星が 流れる
奇跡を届ける 願い星
星降る夜に 願う祈りは 奇跡色に 輝くでしょう
——奇跡色を貴方に——
星空の奇跡色。10000HIT感謝フリー小説 製作・・星詩里音
「星の精さまーっ!」
元気のいい声と共に、1人の星の子が星の国の宮殿に飛び込んだ。
手には、人々の“願い事”が詰まったカバンを提げている。
ティンクたち星の子は、星空を飛び回り、かけられた人々の願いをこうして星の精たちに届けるのが仕事だ。
願い事がしまわれるカバンに願い事が詰まっている所を見ると、
ティンクは随分と長い間冬の夜空を飛び回っていたようである。
小さなくしゃみを一つした後、
ふっと視線を上げると、自分を見下ろしている1人の星の精…マールと目があった。
「おかえりなさい、ティンクちゃん。今日もお疲れさまv」
「…えと、遅くなっちゃってすいません。つい…っくしゅん!;」
「今日もまた、随分長く冬空を飛んでいたのかい?
あんまり張り切りすぎて、風邪を引かないようにするんだぞ。冬の空気は冷たいからな」
「そうそう。ティンク君は本当によく頑張ってくれるけど、
頑張りすぎがたまにキズかな?」
星の精の1人であるニールが、苦笑しながら定位置である宮殿の柱の上から降りてきた。
ティンクからカバンを受け取り、その蓋を開く。
「今日はいつにも増してたくさん入ってるねえ。
大丈夫、責任を持ってスターの杖に届けるよ。にしても…本当に大丈夫かい?
さっきからくしゃみを連発しているけれど…」
「はい、よろしくお願いします。
えっと…あはは、冬の空ってとっても澄んでいるから、たくさんの人が願い事をかけてくれて…。
それが嬉しくて、ついつい飛び回ってたら…風邪引いたみたい…です;」
「お大事にね。
気持ちはとっても良く分かるけれど、ティンク君が風邪を引いたら、その分届く願いが減ってしまうんだから」
ぽん、とティンクの頭を軽く叩いてニールが笑う。
爽やかスマイルにウィンク一つ。
…横から見るだけなら爽やか好青年であったのだが、
「ニール、貴方も星の精になる前…ティンクと同じようにして、
冬空を飛び回っていてひどい風邪を引いて、チョールに叱られていましたよ」
「…う」
何気なく放たれたネールの言葉に、ティンクの頭に手を置いたまま、…ついでに笑みも浮かべたまま、
ニールの全ての動きがストップした。
退くに退けないティンクが、困ったように頭上を見上げる。
「…えっと」
「……………」
「ニールさま?」
「ニール?ティンクが困っていますよ。
いつまでも石像になっているんじゃありません、早く上がっていらっしゃい」
「………。
…ネール…。何故いつも君はそうやって、
遠い昔のことを軽やかに…」
手にティンクのカバンを提げて、よろよろとニールが飛び上がる。
…やや傾いでいるのは気のせいではないだろう。
「ティンク、今日はゆっくり休むんだぞ」
「はい。それじゃあ、お休みなさい」
ハールの言葉にぺこりと頭を下げて、ティンクが宮殿の外へ飛んでいく。
それを見送って、ニールが“願い”をチョールに手渡した。
いくつかの光の欠片が、キラキラと散った。
受け取ったチョールが、一つ一つ願いを指して確認していった。…何分量が量なのでかなり大変そうだ。
よくない願い…悪い願いごとは指先からすっと離れていくので、
内容を確認した後、それは宮殿の天井の穴から空へと飛ばして行く。
このふるいわけの作業は、星の精の大切な仕事だ。
願いを叶えるスターの杖には、願いの善悪の区別がつかないのだから。
「本当にあの子は頑張りやじゃのう」
「そうだな。今日くらいはおとなしく、早く休んでくれればいいんだが」
「…いや待て、ハール、今夜は…」
苦笑しながらの二人の会話。
そこに、ダールが口を挟んだ。「今夜」という代名詞にハールは一瞬不思議そうな顔をしたが、
すぐに合点がいったのか目を小さく見開いた。
「……あ」
「忘れていたのか?」
「もー、だからハールちゃんはテレサに捕まっちゃったりするのよっ」
マールの言葉に、言い返せずに黙ってしまったハールを眺めてチョールが笑う。
クッパにスターの杖を奪われた際、彼らはカードに封印されたのだが、
その時に「道に迷ってテレサに捕まる」という失態をハールは演じてしまっていたのだった。
「まあ、ティンクもそのことくらいは憶えているじゃろう。
それに、まだ数時間ほど間がある。それまでに、ワシたちも叶えるべき願いを叶えなければな。
…おや?」
笑いながら願い事の確認を再開したチョールの手が、ふと止まった。
指先に見つけた、ほんのりと桃色に光る“願い”。
そっと手をかざして、その願いの内容を読み取り…驚いて軽く目を見開く。
不思議そうに同胞たちが見つめる中、
「ティンクは、本当に心優しい友人を持っているのじゃな」
チョールは微笑んだ。
*・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・*
「…はっくしゅんッ!;
うー…ちょっと調子にのって飛びすぎちゃったかな〜…;」
ぶちぶちと呟きながら、ティンクは自分の部屋から空を見上げた。
星の精の宮殿が視界の端に見え、それ以外の視界は一面星で覆われている冬の星空。
開かれた窓から冷たい空気が入ってきて、風邪気味の身体には少しばかり辛い。
名残惜しそうに息をつき、カタンと音を立ててティンクは窓を閉めた。
今日は早く寝よう、と呟きながら、もう一度窓枠の向こうの空を見上げる。
…と、
「……えっ!?」
視界の端の宮殿の頂上から、ぱぁっと光の筋が空に走った。
閉めたばかりの窓をバッと開け放って、ティンクは外に身を乗り出す。
ほんのりと桃色を帯びた光が、小さな花火のように弾けて、夜空に消えていくのが見えた。
星の精の仕事は、星の子から届けられた人々の願いをこうして叶えること。
そしてそれは、星の国に住んでいる住民たち全員の誇りでもある。
「今の…叶った願い事?
最近ずっと空を飛んでばかりいたから見るの久しぶりだなあ…!」
目を輝かせて、桃色の光の跡を見つめる。
冷たい風が頬を撫でたが、少しも気にならなかった。
膝をついて窓の枠によりかかり、また願いごとの光が見えないかと空を見上げる。
とはいえ、延々星空を見上げているのはかなり首に負担がかかる。
窓枠に乗せた組んだ腕に頭を乗せて、もう一度宮殿を見つめて…ふっと目を閉じ、さっきの桃色の光を思い浮かべる。
楽しそうに、ティンクはそのまま微笑みを浮かべた——。
*・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・*
「……ひーめーさーまー?」
真夜中のキノコ城。
そぉっと城の裏口を潜り抜けようとしていたピーチ姫がびしっと硬直する。
「…あ…えっと、こんな時間までご苦労様、キノピオ。
もう時間も遅いから、今日の警備は終わりでいいわよv」
「厚いコートを羽織って靴を手に持って、
扉を開いてそこから身体を出している姫様が目の前におりますのに、そんな事は私にはできません。
どちらへお向かいですか?」
「ええと…その…こっち通って帰ってみようかしら、って…思ったのよ」
「そっちは城の裏庭ですよ、姫様。
残念ですが、貴女のこの先の行動は見通しております」
にこにこにこと笑みを浮かべたままの二人の会話。
しかし、ピーチ姫の笑顔が若干引きつっているようのは気のせいではないだろう。
「…少しだけでも、駄目かしら?」
「いけません」
「本当に少し——」
「お風邪を召されます」
「〜〜〜っ…;」
無言になってしまったピーチ姫を見上げて、困ったようにキノピオはため息をついた。
何だってこのお姫様は、こんな真冬の深夜に外へ行こうとしているのだろう?
突然扉を開け放って猛ダッシュ、という手段をとられないように目線はそらさず、キノピオはピーチに問いかけた。
「姫様、どうしてこんな夜中にお忍びを決行されようとしているのですか?」
「それは…。…言ったら行かせてくれる?」
「駄目です」
「〜〜〜…。それなら私も言わないわ」
扉に手をかけたまま、ピーチ姫が視線を下げる。
キノピオも、行かせてあげられるなら行かせてあげたいが、一国のプリンセスが夜中に外を歩くなど言語道断だ。
…しかも、彼女は「攫われ体質」なのだから。
「申し訳ありませんが…。
今日は諦めて、部屋に戻ってください。
貴女は、私たちの国のプリンセスなのですから、少しはその自覚を」
プリンセスの自覚。
もういい加減聞き飽きたその言葉を言われ、さすがにむぅっとした表情でピーチ姫が顔を上げる。
…が、心底心配そうな…そして、本当に申し訳なさそうなキノピオの表情を見て、
ピーチ姫は諦めたようにため息をついた。
彼女も、自我をそこまで押し通して人に迷惑をかけるのは望んでいなかった。
「…分かったわ」
握ったままだったドアノブから手を離す。
風の力でゆっくりと閉まっていく扉を残念そうに見つめ、ピーチ姫は足を自室の方へと向けた。
*・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・*
星空の輝く翌朝。
スターロードの向こうにある星の国は、太陽が昇ることはない。
「……ん…」
木から星屑が落ちる音で、ティンクが目を覚ました。
寝ぼけた表情のままで、目の前の空を見上げる。
「………」
おかしいなぁ、いつもは目を覚ましたら、一番に見えるのは部屋の中のはずなんだけどなあ?
ぼんやりとした頭でそんな事を考え、
それからたっぷりと一呼吸を置いて。
「……ぇええええっ!?」
がたがったん、という騒音が響いた。
跳ね起きたつもりだったティンクが思いっきり転んだ音だ。
自分が窓枠に寄りかかったまま一晩を明かした事に、そこでティンクはようやく気づいた。
「……ボ、ボクあれからあのまま朝まで…?
あ〜っ…;ちゃんと寝るつもりだったのに…」
ティンクの家は、周りの星たちの家よりも若干高い所にある。
だから、星たちも窓に寄りかかったまま眠っているティンクに気がつかなかったのだろう。
ずーんと暗い雰囲気を漂わせながら、ティンクが大きなため息をついた。
「…どうしよう、こんな寒空の下思いっきり寝ちゃって余計風邪が悪化し…。
…あれ?」
昨日あんなにしつこかったくしゃみが出てこない。
喉が痛いわけでも、熱っぽいわけでもない。
そっとティンクは浮き上がると、そこでくるりと空中で一回転を試みた。
すとん、と問題なく着地する。
「……治ってる?」
違和感を感じながら、ティンクが首を傾げた。
まあいいか、と続けて呟いて、ふっと壁にかけた時計に目をやり…
真っ青になった。
「あ゛———ッ!!!?」
高らかに絶叫して、ティンクは外へと飛び出した。
そのまま、猛スピードで星の国の宮殿へと飛んでいく。
「星の精さま———ッ!!」
ほとんど悲鳴に近いものを上げて飛び込んできたティンクに、星の精全員が不思議そうな顔をする。
ぜいぜいと息を整えていたティンクが、心底がっくりした表情で、
せいしょうのとき○○○○○○○○○○○○
「…星翔の時…終わっちゃいました…よね?」
「あ、はい、昨夜に…。
…行けなかったのですか?」
テールが言葉を返し、他の星の精が顔を見合わせる。
…ハールの顔に冷や汗が浮かんでいるが、ティンクはそれに気づかない。
“星翔の時”とは、人の願いを聞くことが仕事の星たちが、自由に飛びまわることを許される時間のことだ。
時間は1〜2時間の間と短いが、その間はたくさんの星が空を飛び交う。
その眺めは、詩人に“奇跡の夜”ともうたわれるが、
時間が短いうえ、年に一度しか無い時間なので、その事を知っている人は少ない。
「ボク、うっかりしてて朝まで眠ってしまって…;
朝から騒いでしまってすいません。ありがとうございました」
一度礼をして、ティンクが扉の方に身体を向ける。
その背中が小さく見えて、思わずマールは声をかけていた。
「ねえ、ティンクちゃん…。その…、
昨日の夜は大分辛そうだったけど、もう風邪は大丈夫?」
「え、あ…そういえば。
実はボク、昨日…開けた窓から星を見てて、そのまま眠っちゃったんです。
でも、何故か朝起きたらすっかり治ってました。悪化してるかと思ったんですけれど」
当人が一番不思議そうに首をかしげて答える。
マールも不思議そうな——というより、少し呆れた——表情をしたが、
そこでぱんっと手を叩いた。
「…ああ!昨日の夜の願い事のおかげね?」
「…えっ?」
「ティンク君、昨日、ボク達の叶えた願いごとの中で…桃色の光をした物は見たかい?」
ふわり、と柱から降りてきたニールが尋ねる。
ぱぁっ、とティンクの頭の中に昨日の光が浮かび上がった。
こくりと頷くと、ニールがその先を話すことを促すようにチョールを見上げた。ティンクもそれを見て上を見上げる。
「ティンク、あの願い事は、偶然ピーチ姫がお前にかけた願い事だったんじゃよ」
「…えぇえっ!?」
「ピーチ姫もお前とは知らなかったのじゃろうが…。
相手を思ってかけた願い事は、祈りになる。
あの願いの内容は、“ティンクや皆が元気で幸せでありますように”というものじゃった」
「ピーチ姫様は本当に人々を大切に思っていますからね。
その分、自分の事をいつもないがしろにしている感があるので心配です」
笑みをたたえたチョールの言葉をテールが引き継ぐ。
予想外の言葉に、ティンクはしばらくそこに突っ立っていたが、しばらくして我に返ったらしく、
「え、あ…星の精さま、教えてくれてありがとうございます!」
がばっと礼をすると、猛スピードでティンクは外へ飛び出していった。
その後姿を、きょとんとした表情で星の精たちが見送る。
しばらく、間があいた。
「…あの子はいったいどこへ行くつもりだ?」
「あら、ダール、ティンクちゃんの性格を考えたら分かるでしょう?
まあ…今日くらいは特別に許してあげましょう、ね」
くすくすと笑って、マールはティンクの飛び去った方へ目をやった。
*・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・*
星の国を全力疾走していたティンクは、突然目の前に飛び出してきた星に、慌てて急ブレーキをかけた。
…が、車…いいや、星は急には止まれない。
「わあああぁあっ!?」
「うわぁっ!!」
どぉんっ!!
派手な音を響かせて、二つの星がぶつかる。
パッと砂埃のように星屑が散った。
派手に地面に身体をぶつけたティンクは、ひざがじんじんと痛むのを感じながら顔を上げた。
「…いったぁ〜…」
少し離れた所で、足を押さえて涙目になっている、自分より一回り小さな星。
その姿に見覚えがあった。
ティンクがその星の名前を呼ぼうとするのと同時に、その星がぱっと顔をあげる。
その表情が、見る見るうちに変わっていった。
「トイ…」
「ティンクおにーちゃんっ!?」
ぱあっと明るい表情になった星の子が、がばっと立ち上がる。
ティンクがその名前を呼ぶよりも早く、ティンクに駆け寄った。
「わーっ、久しぶり!ティンクおにーちゃん、ボクの事憶えてる?
もう、クッパがスターの杖盗んだりしたせいでボクこっちに来れるの遅くなっちゃったんだ。
つい昨日上がってこれて…絶対に“星翔の時”の時に会えると思ったのに、
ティンクおにーちゃんどこ探してもいないんだもの!」
「トイラ、そんな一気に話されたら聞こえなっ…;」
「嬉しいなぁ、ティンクおにーちゃんにまた会えて!
星の生まれる谷のみんな、ずっとティンクおにーちゃんと会いたいって言ってたよっ」
星の子の少年はにこにこと笑ったまま言葉を紡ぐ。
星の生まれる谷にティンクがいた頃、自分を兄のように慕っていた星の子、トイラ。
星の国に上がってから、会えなくて寂しいと思ってはいたのだが、突然こういう形になると先に困惑がくる。
まだ若干混乱ぎみのティンクを残して、
トイラは——星の生まれる谷にいた頃からおしゃべりだった——まだ話し続ける。
「外の世界ってとってもきれいだったよ、ボク“星飛の時”のときに空を飛んできたんだ。
丘の上から星を見てる花でしょ、砂漠の明かりでしょ、それから街と——」
「えっと、トイラ、ボクちょっと急いでて…」
「あと、お城の桃色のお姫さま!」
「……!?」
困ったように笑っていたティンクの表情が変わる。
それからそれから、と指折り数えているトイラの手に手を重ねて、
きょとんとして顔を上げたトイラと目を合わせる。
「…?ティンクおにー…」
「ねえ、トイラ、その桃色のお姫様——って、ピーチ姫のこと?
桃色のドレスで、金色の髪をしてる人」
「あ、うんっ、多分そうだよ。
ティンクおにーちゃんと一緒にクッパを倒すお手伝いしたお姫様でしょ?
なんだか、お城の裏口から出ようとしてたんだけど、兵士さんと何か話してお城の中に入っちゃった」
とっても残念そうな顔してたよ、とトイラが続ける。
「それって——」
「うん、“星翔の時”のこと知ってたんじゃないかなあ?
お姫様だもんね。
それからしばらく気になってみてたら、テラスみたいな所に出てきたんだけど、
たまたま隣のテラスにいたキノピオさんに見つかっちゃってしぶしぶお部屋に戻ってた。
それからは出てきてなかったよ」
「………」
トイラの言葉に、ティンクは考え込むように口を閉じる。
不思議そうにトイラが見つめる中、しばらくの間を置いてティンクは立ち上がった。
「ティンクおにーちゃん、どこに行くの?」
「スターロードだよ。トイラも来る?」
「…えっ、でも、スターロードって…地上に通じる道じゃないの?
ちゃんとした理由がないと、地上に降りちゃダメって…」
うーん、とティンクは返答に困ったように口に手をやる。
しばらくぶつぶつと呟いた後、一人でこくんと頷いて。
「お礼を言いに行く、っていう理由ならきっと大丈夫だから。
実は、トイラにぶつかったの、
スターロードから地上へ行って…お礼を言いに行こうって、慌ててたせいだったんだ」
「…そうなの?」
二重の意味を持った問いに、そうだよ、とティンクは笑って返して。
トイラがそれ以上何か言う前に、ふわりと浮き上がって飛び始める。
慌ててトイラが後を追い、二人の星の子が並んだ。
空を見上げて何かを考えていたティンクが、視線を空に向けたまま問いかける。
「ねえ、トイラ」
「なあに?」
「星の子は…願いを届けるだけじゃなくて、願いをかける事はできないのかな?」
「…えっ?」
「ピーチ姫も、元気で幸せでありますように、って」
ポゥ、とトイラの肩から提げているカバンが光った。
*・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・*
空の上にある星の国の、そのさらに上の空で。
たくさんの星と流れ星が、キラキラと輝いている。
地上からでも、きっと綺麗にみえるだろう——。
ティンクおにーちゃん、ボク、今は一緒に行けない——
ありがとう。
よく届けてくれたね。
流れ星は——願いを聞くために流れると言われるけれど。
奇跡を届けるために流れるとも言われているって知っていたかい?
“相手を思ってかけた願いごとは、祈りになる”んだよ。
キミは、何を願う?何を祈る?
それは…それは…
ボクも、何かをしてあげたいんです。
ピーチ姫は、ボクの大切な大切な友達なんです。
私たちも
力を貸しましょう。
奇跡を届けるために——。
*・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・*
「“星翔の時”…終わってしまったわね」
自分の部屋で、ふうとため息をつきながら。
ピーチ姫は窓の向こうの星空を見上げた。“星翔の時”があったのはもう昨日のことだ。
あの空の向こうにティンクがいることは知っている。
それでも、やはり会うチャンスがあるのなら、それに賭けたかった。
立場上——無理な話だったが。
「こういう時だけは、お姫様でいたくないって思うわ」
星空に背を向ける。
…と、背後の窓からコンコンという音がした。
デジャビュを感じて、くるりと後ろを振り返る。
「……!?」
窓を叩いているのは、あの時会えなかった大切な友達。
ピーチ姫は目を見開いた。
「こんばんは、ピーチ姫」
にこりと、窓枠の向こうでティンクは微笑んだ。
驚きを隠せない表情で、ピーチ姫が駆け寄り、大きな窓を開く。
ティンクを見上げて、信じられないというように口を開いた。
「ティンク…!?どうして貴方がここに!?
星の子は、理由無しには——」
「はい、本当はこっちに来たらいけないんですけど…。
今回は特別だ、って言ってもらえました」
「…驚いた…」
まだ表情が硬いピーチ姫に、ティンクが困ったように笑う。
それから、何かを思い出したように、あっ、と小さく呟いた。
ピーチ姫がどうしたのか、と問うよりも早く、ぺこりとティンクが頭を下げる。
「あの、この前ピーチ姫がかけてくれた願いごと…ちゃんと届いて、叶いました!
ボク、とっても嬉しかったです。
それと…ピーチ姫が願いごとをかけた流れ星、あれ、ボクだったんですよ」
「…え?…あ…!」
あの時、流れ星にかけた願いごと。
合点がいって、ピーチ姫が手を叩く。
嬉しそうに笑ったまま、それから、とティンクが言葉を紡いだ。
「今日は、そのお礼にきたんです。
えっと…ボク、まだまだ小さな星の子だから、たいした事はできないんですけど…」
「えっ、そんな、いいのよ、お礼なんて!」
ピーチ姫はぶんぶんと手を振ったが、ティンクはふわりと浮かび上がった。
星空を手で指して、笑みを浮かべる。
「流れ星は、奇跡を届けるためにも流れるって言われているんですよ」
「えっ…」
ピーチ姫が聞き返すよりも早く、ティンクが空へ飛び出した。
慌ててバルコニーに走り出たピーチ姫は——、自分の目を疑った。
星空を、無数の流れ星が流れている。
まるでシャワーや雨のような、見たことのないほどの数。
ときおり、花火のように色とりどりの光が弾け、流れ星と共に踊っている。
まるで、虹色の夜空のようだった。
「…綺麗…」
吟遊詩人に“奇跡の夜”と歌われる景色のようだと思って、ピーチ姫はすぐにその考えを打ち消した。
——だって、この景色のほうがきっとずっと綺麗に決まっているわ。
「…姫様?どうなされ…おぉっ!?」
部屋に入ってきたキノじいが、1オクターブはずれた声を上げてピーチ姫の近くに駆け寄った。
開きっぱなしになった扉から不思議そうに兵士たちが顔を覗かせ、その表情も驚きに変わる。
「これは…すごいですな」
「でしょう?これはね、ティンクからの私へのお礼なんですって」
「おれ…今何と?」
「もう言わないわ」
本当に嬉しそうに笑いながら、ピーチ姫は空を見上げ続けた。
この眺めも素晴らしいけれど、友達の心が嬉しくて、温かくなる。
あちこちから、感嘆の声があがった。
城の窓のあちこちから、キノピオたちが顔を覗かせている。
下に見えるキノコタウンのあちこちで、人が動いているのも本当に良く見えた。
「ありがとう、ティンク。
私の大切な友達」
少しだけ星空がにじんで、慌ててピーチ姫は目をこする。
せっかくの贈り物なのだから、もっとしっかり見ておこう。
それから。
「ティンクも、マリオも、他のみんなも、
世界中の人みんなが——いつか幸せになれますように」
手を胸の前で一度組んで——それからピーチ姫は、空へ向かって大きく手を振った。
*・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・*
「本当に綺麗な眺めだわ。
でも…チョール、きっと願いごとの数が大変なことになっていますよ」
「いいんじゃよ、ネール。
それにしても——スターの杖で、同属である星の子の願いを叶える日が来るとは思わなかったのう」
「そうだね。
でも、たまにはこういう事もいいんじゃないかな?
本当に、綺麗だしね」
「願いの力か——。
はは、今回はティンク君に負けたな。
この眺めは…奇跡の眺めだよ」
「あら、ピーチちゃんも言っていたけど、それ以上じゃないかしら?」
「…そうだな」
「兄さん、すごいよほらっ、流星雨!」
「うっわー…これはもう流星雨というか、それ以上じゃないか?」
「えへへ、ぼく願いごとしちゃおうっと。
兄さんはしないの?ピーチ姫のこととk…」
「…パンチ食らいたくなかったら黙って見ろっ;」
「うー…;」
「…まあでも、せっかくだし。
こんな綺麗な夜なんだから——」
「すごいなあ、この景色!
…さすがにこの景色は貴女の毒舌を持ってしても評価できないでしょ、…ユイール?」
「…そうですね、認めます。
純粋に、綺麗だと」
「すごいね…鳥目なはずのボクにも見えるんだから。
見られて嬉しいよ」
星の精が、人々が、あちこちで会話を交わしている頃。
ティンクは、空の上からピーチ姫へ向かって大きく手を振った。
見えていなくても、伝われば、かまわない。
地上で、ピーチ姫がしっかりと手を振り返すのを見て——ティンクは嬉しそうに笑った。
流れ星が 流れる
奇跡を届ける 願い星
星降る夜に 願う祈りは 奇跡色に 輝くでしょう
流れ星が 流れる
たくさんの願いを その背に乗せて
——奇跡色の夜に。
Fin
後書き。
さて…とっても遅くなってしまいましたが、
ここに、星空の奇跡色。の10000HIT記念小説をお届けいたします。
当初は、挿絵つきとか、フリー絵セットとか、もっとたくさんのエピソードとか…を考えていたのですが
このような形に落ち着きました。
余談ですが、書き直した小説NO1だと思います。ええ。スランプは長かったorz
この話は、一応ティンクとピーチ姫をメインとした擬人化小説です。
フリー小説で擬人化ってどうよという話なのですが、
…やっぱりティンクにも腕とか足とかが欲しいじゃないですか(…。
それと、マリストももう大分やっていないので、
ティンクや星の精たちの性格や口調が若干違っていてもお気になさらずに。
だって敬語以外のティンクって想像が…;
ちなみに、トイラという星の子は管理人のオリジナルです。ゲーム中には出てきませんので、あしからず(笑。
げふんげふん;
星空の奇跡色。にもくっついている奇跡色、という事にこだわって書き進めた小説なので、
ラストもああいう形になれて本当に一安心しています。長かったorz
また、ラストの方に会話だけの方達がおりますが——
前者はいいとして、後者は星色。に通い詰めている方じゃないと分からないかもしれません;
えーっと…深い意味はありません(笑。
ちなみに全員オリキャラです。一名はそうではないとも言えるけれど…まあ版籍ではナッシングです。
さて。
この小説はフリー小説ですので、こちらのページにリンクを張ってくださってかまいません。
日記やらHPやらで紹介していただけると大感げk(略。
その際には、私、星詩里音がサイトの一万企画で書いたことをどこかに明記した上で、
リンクを張ってくださいね。
こちらのページに先に訪れて、
星空の奇跡色。自体にはまだ行ったことが無い人のために↓
星空の奇跡色。インデックスへ
それでは、この辺りで後書きも終わりにします。
皆さんの心が、少しでも暖かくなることを祈って。
2006.1.22
星詩里音
*・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・*
ちなみに、これを執筆中に聞いていた曲です。
DLは出来ないようでしたのでこちらに記載。聞きながら読むのもいいかもしれません(笑。
ちなみに新窓表示です。
Special Thanks
ティンクシーン、星の国シーン、ラストシーン
(ティンク登場、星の国、さよならティンク)
スマブラ屋
音楽室にて
管理人、さんたろう様
ピーチ姫シーン、その他
(GLACE)
♯With R
管理人、ゆん様、rico様